日々増え続ける郵便物、レシート、契約書、そして大切な思い出の品々。一枚一枚は些細でも、積み重なれば膨大な量となり、やがては生活空間を圧迫します。特に、不測の事態に備える「終活」の視点から見ると、これらの「紙モノ」の整理は避けて通れない重要な課題です。人生の節目を迎え、または将来に安心をもたらすために、今こそ「紙モノ」整理の必要性と具体的な手順を理解し、実践を始める時です。渡部亜矢氏の著書『見てすぐできる!【図解】60歳からの「紙モノ」整理』(青春出版社)で紹介されている、誰もが今すぐ始められる整理術とその思考法を深掘りします。
なぜ「紙モノ」整理はかくも難しいのか?その本質に迫る
衣服や家具といった「モノ」の片付けとは異なり、「紙モノ」の整理は多くの人が後回しにしがちです。その最大の理由は、「情報」が詰まっている点にあります。ほとんどの紙には文字が書かれ、そこには重要な情報が含まれているため、無意識のうちに「捨てるべきではない」という判断が働きがちです。「もし必要な情報を捨ててしまったらどうしよう」という不安は、チラシ一枚にさえ捨てられない理由を与えます。
さらに、衣服のように一目で「いる」「いらない」を判断することができません。一枚一枚内容を読み解き、その重要性を判断する作業は、想像以上に時間と精神力を要します。加えて、卒業証書や手紙、写真、子供の作文など、思い出と結びついた「紙モノ」は、見返すことでかえって愛着が湧き、手放しにくくなるのが常です。そして、時間をかけて一枚を処分しても、かさばらないため「捨てた達成感」が得られにくいという点も、その難易度を高める要因となっています。時間と労力に見合う成果が見えにくいという点が、一般的なモノの整理と大きく異なる、「紙モノ」整理特有の難しさなのです。
迷いを断ち切る!「紙モノ」整理の3つのカテゴリーと優先順位
効果的な「紙モノ」整理を実践するには、まず「健康モノ」「お金モノ」「書類モノ」という3つの明確なカテゴリーに分類することが重要です。この分類により、判断基準が明確になり、整理の迷いを大幅に減らすことができます。
1. 命に関わる「健康モノ」
健康保険証、お薬手帳、診察券などは、まさに命を預ける重要な「紙モノ」です。これらの情報は、万が一の緊急時に迅速な医療処置を受けるために不可欠です。また、見落としがちなのが、スマートフォンやタブレットのログイン情報、オートロックの暗証番号、管理会社の連絡先といった、自宅での緊急時に必要となる情報です。これらを「健康モノ」として整理し、アクセスしやすい場所に保管することは、自分自身の、そして家族の安全を守る上で最優先事項となります。
2. 万が一を支える「お金モノ」
次に優先すべきは、相続や経済的な安定に直結する「お金モノ」です。家の登記識別情報通知、生命保険証書、預貯金通帳、株式や投資信託の契約書類などがこれに該当します。これらは資産の全体像を把握し、緊急時や将来の計画において重要な役割を果たします。クレジットカード情報や公共料金の支払いに関する書類もここに含まれ、これらを整理することで、経済的なリスク管理を強化し、不測の事態にも対応できる体制を整えることができます。
3. 思い出と日々の管理「書類モノ」
「健康モノ」「お金モノ」以外の「紙モノ」は、全て「書類モノ」に分類されます。家電の保証書、郵便物、本、雑誌、そして最も整理が難しいとされる日記、手紙、写真、子供の作品などの思い出の品々が含まれます。これらの「書類モノ」は、社会的な重要性よりも個人の基準で「いる」「いらない」を判断する必要があるため、感情的な迷いが生じやすいのが特徴です。そのため、緊急性の高い「健康モノ」「お金モノ」の整理を終えた後に取り組むことで、心理的な負担を軽減し、より効率的に整理を進めることが可能になります。
整理の順序としては、「健康モノ」「お金モノ」「書類モノ」の順に着手するのが鉄則です。「お金モノ」から着手したいと思いがちですが、「命あってのお金」であることを忘れてはなりません。まずは健康に関わる書類を優先し、いざという時に慌てない準備を整えましょう。日記や手紙など、思い出が絡んで迷いが生じやすい「書類モノ」は後回しにするのが賢明です。最後に、デジタルデータ(写真、メール、クラウド上のファイルなど)の整理も忘れずに行うことで、完璧な「紙モノ」整理へと繋がります。
積み重なった書類の山と整理術、紙モノ整理の重要性
驚くべき事実:「ナレムコの統計」が示す99%の書類は1年後に出番なし
「いる」「いらない」の判断は、「紙モノ」整理において最も頭を悩ませるポイントです。しかし、驚くべき統計が存在します。アメリカの国際記録管理協議会(National Records Management Council)の報告によると、作成(取得)から半年後にはわずか10%の資料しか使われなくなり、1年後に見返すのはさらに少ないわずか1%に過ぎません。この事実は「ナレムコの統計」として知られており、私たちが大切に保管している書類のほとんどが、実は1年以上経つと不要になる可能性が高いことを示唆しています。
この統計は、私たちに「捨てる勇気」を与えてくれます。後生大事に保管している書類の中には、既にその役割を終えているものが多数含まれているのです。この事実を認識することで、「いつか使うかもしれない」という漠然とした不安から解放され、より積極的に「紙モノ」を手放す判断ができるようになるでしょう。
整理された「紙モノ」がもたらす安心と未来
「紙モノ」整理は、単なる物の片付けではありません。それは、自身の情報資産を管理し、未来への不安を解消するための賢明な投資です。緊急時にも慌てず対応できる安心感、必要な情報への迅速なアクセス、そして心と空間のゆとりは、整理された「紙モノ」がもたらす最大の恩恵です。今日からでも、小さな一歩から始めてみませんか。そして、あなたの人生をより豊かで安心できるものに変えていきましょう。
参考文献
渡部亜矢 (2023). 『見てすぐできる!【図解】60歳からの「紙モノ」整理』. 青春出版社.