「MASGA」帽子が動かした韓米関税交渉:韓国の外交努力と舞台裏

韓米間の重要関税交渉が妥結に至る過程で、「MASGA(マスガ=Make American Shipbuilding Great Again、アメリカの造船業を再び偉大に)」と名付けられた米国造船業復興プロジェクトが極めて重要な役割を果たしました。このプロジェクトのインパクトを強めるため、韓国の産業通商資源部が特別に製作し、米国へ緊急空輸した「MASGA」帽子が、交渉の舞台裏で大きな注目を集めていたことが明らかになりました。これは、単なるシンボルに留まらない、韓国の周到な外交努力の象徴と言えるでしょう。

「MASGA」帽子誕生の背景とデザイン秘話

この「MASGA」帽子は、韓国産業通商資源部の造船海洋プラント課職員たちのアイデアから生まれました。関税交渉において提示された韓米造船協力の内容を、より簡潔かつ印象的に伝えるための凝縮されたシンボルとして、2025年6月初旬からデザイン作業が開始されたといいます。

複数の試案が検討された結果、最終的に採用されたのは、赤い帽子のてっぺんに星条旗と太極旗(韓国国旗)が並べられ、白い糸で「MASGA」の文字が刺繍されたデザインでした。このデザインは、ゴルフを好み、赤い帽子を愛用する当時のドナルド・トランプ米大統領の好みを考慮して選ばれたと説明されています。試案が固まると、同部の実務者たちは、繊維業者が集まるソウル・東大門の業者を直接訪ね、細部にこだわりながら帽子の製作に着手しました。

「MASGA」帽子が動かした韓米関税交渉:韓国の外交努力と舞台裏

米国への緊急空輸:迅速な対応の舞台裏

金正官産業通商資源長官と呂翰久通商交渉本部長がワシントンでハワード・ラトニック米商務長官と会談し、MASGAプロジェクトを提示し、交渉が進展する中で、米国に滞在していた担当職員から「MASGA帽子を急いで送ってほしい」という要請が入りました。この要請は、「24時間以内に到着しなければならない」という現地からの緊急を要するものでした。

これに応じるため、産業通商資源部の実務陣は、大韓航空と緊密に協議。帽子10個を携えて仁川国際空港へ向かい、ワシントンからの飛行機に載せることで、翌日には現地の交渉チームに無事届けられたといいます。この迅速な対応は、交渉の成功に向けた韓国側の並々ならぬ熱意と準備の徹底ぶりを物語っています。

公開された「MASGA」帽子の真意と外交的評価

「MASGA」帽子が初めて一般に公開されたのは、2025年8月3日、金容範韓国大統領室政策室長がKBSの時事番組『日曜診断』に出演し、韓米関税交渉の裏話を語った際でした。金室長はスタジオに帽子を直接持ち込み、撮影チームに「画面にこれをちょっと映してほしい」と要請。その上で、「私たちがデザインして、米国に10個ほど持って行った。このような象徴となる物を作るほど、あらゆる努力を尽くした」と説明しました。

彼はさらに、「韓国がこれほど多方面にわたって造船に関して多くの研究と提案を持っているということを、米国は想像していなかっただろう。事実、造船がなかったら交渉は平行線をたどっていたと思う」と強調。この発言は、単なる帽子に留まらない、韓国が用意した造船協力という戦略的な「カード」が、複雑な関税交渉を妥結に導く上で決定的な役割を果たしたことを示唆しています。

結論

「MASGA」帽子の製作と緊急空輸の物語は、韓米間の重要な関税交渉において、韓国政府がいかに細部にまで気を配り、創造的かつ戦略的なアプローチで外交努力を展開したかを示す象徴的なエピソードです。この帽子が示すように、外交交渉においては、具体的な政策提案だけでなく、相手国の文化や好みを考慮した緻密な準備と、強力なシンボルを生み出す独創性が、時には膠着状態を打開する鍵となり得ます。韓国の造船業に関する深い研究と多様な提案は、米国側に新たな視点を提供し、最終的に交渉妥結へと導く決定打となりました。


参考文献: