カムチャツカ沖地震、1952年M9.0との重複震源域が示す新たな地震予測の知見

7月30日にロシア・カムチャツカ半島沖で発生したマグニチュード(M)8.7の地震について、東北大学災害科学国際研究所の福島洋准教授(地震学)の解析により、1952年に同地域で発生したM9.0の地震と震源域が重なることが明らかになりました。東北沖などでM9クラスの巨大地震が再来する間隔は数百年とされていますが、今回わずか70年余りで同規模の再来が見られたことは、今後の地震予測研究に極めて重要な知見をもたらす可能性を秘めています。

カムチャツカ半島における1952年の地震と今回の地震の余震域比較図。両者の震源域が重なり合う様子を示す。カムチャツカ半島における1952年の地震と今回の地震の余震域比較図。両者の震源域が重なり合う様子を示す。

千島海溝の活動と過去の巨大地震

今回のカムチャツカ沖地震は、北海道東方沖からカムチャツカ半島東方沖にかけて延びる千島海溝の北部で発生しました。この海溝では、太平洋プレートが年間約8センチメートルの速さで半島を乗せるオホーツクプレートの下に沈み込んでいます。産業技術総合研究所のデータによると、1700年代以降、この千島海溝沿いでは今回を含め少なくとも18回のM8以上の大地震が発生しており、非常に活発な地震帯であることが示されています。

70年余りで再来したM9級の破壊:福島准教授の分析

福島准教授は、今回の地震と1952年のM9.0地震の震源が近接している点に着目し、地震の破壊範囲を推定する際に用いられる余震分布を詳細に比較しました。その結果、両地震の震源域が明らかに重複していることを確認。さらに、今回の地震の「前震」として、震源の東側で7月20日にM7.4の地震が発生し、これを含むM4~7クラスの群発地震が合計187回観測されていたことも判明しました。震源の近接と余震分布の重複は、両地震が類似のプロセスを経て、ほぼ同じ領域を破壊した可能性を示唆しています。福島准教授は、今後、地震波だけでなく津波や地殻変動のデータも加えて詳細な解析を進め、「断層の滑り残り」の影響などを調べる必要があると指摘しています。

日本の地震予測システムと前震の重要性

福島准教授は、「巨大地震では、断層の震源域全てが破壊されると考えられがちだが、1952年の地震の際に断層に破壊されていない部分が残されていた可能性がある。それが今回の地震につながった可能性がある」と説明しています。日本国内においては、今回のようなM7クラスの前震が想定震源域内で起きた場合、その後のM8クラスの巨大地震への注意を促す「南海トラフ地震臨時情報」や「北海道・三陸沖後発地震注意情報」といった枠組みが存在します。福島准教授は、「東日本大震災の際も、本震の2日前にM7.3の前震があったことを踏まえれば、このようなケースが実際に起こり得ることを改めて認識していただく機会となる」と述べ、前震活動への継続的な注意喚起の重要性を強調しました。

今回のカムチャツカ沖における巨大地震の再来は、プレート境界型地震のメカニズム解明と、特に地震空白域や滑り残りの存在が今後の地震活動に与える影響について、国際的な研究を深化させる貴重な機会となります。この詳細な分析は、日本を含む環太平洋地域の地震防災対策に新たな示唆をもたらすことが期待されます。

参考文献