フジサンケイグループ前代表の日枝久氏(87)が、世間からの厳しい批判に対し、ついに沈黙を破り、初めてメディアの取材に応じた。「どこかで事実を話そうと考えてきました」と語る日枝氏。ノンフィクション作家・森功氏による10時間にわたる独占インタビューに応じ、フジテレビを巡る「日枝=悪玉論」や企業風土への指摘に対し、初めて自身の言葉で反論を展開した。これは、中居正広氏による性暴力事件が報じられて以降、メディアへの初の直接的な言及となる。
フジサンケイグループ前代表・日枝久氏の独占インタビュー。フジテレビの企業風土や人事に関する批判に初めて言及。
「上納文化」報道への反論
今年に入り、メディアを騒がせてきたのが「日枝=悪玉論」だ。日枝氏がフジテレビに長く君臨したことで悪しき企業風土が生まれ、特定の事件の遠因となったとの論調が指摘された。特に、社長を務めた港浩一氏を囲む「港会」を例に挙げ、「見た目の良い女性社員が囲む上納文化がある」との批判が集中した。これに対し、森氏が切り込むと、日枝氏は「冗談じゃない、フジに上納文化なんてありません」と一蹴した。
日枝氏は、上納と懇親は全く異なると強調する。「上納は自分の体を捧げるわけでしょう。それはテレビの楽しい文化とは異なります。僕のつくった『楽しくなければテレビじゃない』の延長が、上納の企業風土になったというけれど、その批判は絶対に許せません」と、自身の経営理念が悪用されたかのような見方に強く反発した。
長年の「独裁体制」批判への釈明
また、長年にわたり日枝氏が人事権を掌握し、“独裁体制”を敷いてきたとの批判も根強い。2017年に代表取締役を退任した後も、相談役として会長や社長の人事を決めてきたと、第三者委員会の報告書にも記されている。日枝氏はこれについても、「僕は社長や会長の人事に関して、相談を受けてきました。だから僕にも責任はありますし、そこから逃げようとは思いません」と述べた上で、「しかし、それはあくまで相談役としての立場でそうするのであり、決めるのは社長であり、会長です。人事の影響力を行使したのとは違うでしょう」と、自身の役割について説明した。
遠藤龍之介氏に関する新たな事実
さらに日枝氏は、今回の独占告白の中で、第三者委員会の聴取の様子についても言及している。また、作家・遠藤周作の長男であり、フジテレビ副会長だった遠藤龍之介氏との間にあった、衝撃的なやり取りも初めて明らかにした。取締役相談役の退任を迫られた際に遠藤氏が提示した驚愕の提案、そして遠藤氏がフジの局長会で物議をかもした“爆弾発言”の詳細についても、その真実を語っている。
今回の10時間にわたる独占告白で、日枝氏は自身に向けられた「悪玉論」や、フジテレビの企業体質に関する様々な疑惑に対し、正面から向き合い、自らの言葉で真実を語った。長らく沈黙を守ってきた日枝氏の、この詳細な証言は、フジテレビの歴史と現状を理解する上で極めて重要な資料となるだろう。この貴重な独白は、複雑なメディア業界の裏側と、経営者としての葛藤を浮き彫りにしている。
参考文献
引用元:「文藝春秋」2025年9月号 / 文藝春秋PLUS