台湾の検察当局は8月5日、半導体受託製造の世界最大手であるTSMCから、同社の核心技術を不正に取得したとして、元従業員を含む3人の社員を国家安全法違反で逮捕したと発表しました。このTSMC技術流出事件は、台湾だけでなく日本の半導体産業にも波及する可能性があり、今後の動向に注目が集まります。
流出事件の概要と2ナノ技術の重要性
今回の技術流出は、TSMCの内部調査によって明るみに出ました。台湾高等検察署はTSMCからの告訴を受け、7月下旬に関与した複数人の従業員(元従業員を含む)を逮捕し、自宅を捜索。その結果、3人が国家安全法違反で摘発され、現在拘留され接見禁止となっています。台湾の大手経済紙「経済日報」の報道によると、流出したのは新竹サイエンスパークにあるTSMCのファブ20で用いられていた2ナノメートルの試作生産技術です。TSMCの従業員が、この2ナノ技術のデータを外資系企業の装置エンジニアに渡したとされています。現在、2ナノ半導体の量産化技術ではTSMCが先行しており、韓国サムスン電子やインテルなども量産化を進めている最中です。日本では、国が2兆円支援する国策半導体企業であるラピダスも、2ナノ半導体の量産を目指しています。
台湾・高雄に建設中のTSMC 2ナノ半導体工場。今回の技術流出は新竹の工場から発生しており、最先端技術の厳重な管理が求められる
東京エレクトロンとラピダスへの波及
複数の台湾メディアは、今回の事件をめぐり、半導体製造装置大手の東京エレクトロンが捜査を受けていると報じています。問題発覚後、データを受け取ったとされる装置エンジニアは勤務先の外資企業を退職しましたが、TSMC従業員と同様に捜査対象となっている模様です。政権与党・民進党系の「自由時報」は、検察当局の他に国家安全会議も捜査に加わっていると報じ、過去2カ月で7〜8件の半導体技術流出問題が捜査対象となり、日本と韓国の装置メーカーが関与していると伝えています。特に、「日本のナショナルチームとしての新興企業が現在2ナノの量産準備を進めており、捜査対象となっている装置メーカーがこの新興企業の装置サプライヤーであるため、技術がこの企業に流出しているのか業界で激しい議論の対象になっている」との記述は、日本の国策半導体企業であるラピダスを指しているとみられます。東京エレクトロンはこの報道について、「会社として承知している」としながらも、自社が捜査を受けているか否かについては「コメントしない」と回答を控えました。
半導体技術保護の重要性と今後の動向
今回のTSMC技術流出事件は、世界的に競争が激化する半導体産業において、核心技術の保護がいかに重要であるかを改めて浮き彫りにしました。特に2ナノといった最先端技術は国家戦略とも直結し、その流出は経済安全保障上の大きな懸念となります。台湾当局の厳格な対応は、技術保護への強い意志を示すものです。今後の捜査の進展と、この事件が日本の半導体産業、特にラピダスの2ナノ量産計画にどのような影響を与えるかが、引き続き注目されます。
参照元: Yahoo!ニュース