かつてPSYのヒット曲「江南スタイル」は、韓国の「江南(カンナム)」を世界中に知らしめました。この楽曲は、ソウル・江南地区の裕福で洗練されたライフスタイルを風刺したものですが、韓国における「江南」とは、一般的にソウル市内の江南区、瑞草区、松坡区の三つの区を指します。これらの地域はアパートの価格が高く、教育や医療環境も整っていることから富裕層の象徴とされ、「江南3区」とも称されています。現在、この江南で最も高価なアパートとされているのが、ソウル市内を流れる漢江沿いにそびえる「レミアン・ウォンベイリー」(瑞草区盤浦洞)です。この超高級マンション内で展開されている、あるユニークな「結婚促進活動」が、今、韓国国内で大きな波紋を呼んでいます。
「平米当たり2億円」の超高級マンション、レミアン・ウォンベイリー
「レミアン・ウォンベイリー」は、地上35階建てのタワーマンションであり、その驚異的な価格設定で知られています。例えば、専有面積133平方メートルの部屋が約106億ウォン(約12億円)で取引された例もあり、「平米当たり2億ウォン(約2000万円)」という、ソウル最高水準の価格を誇ります。このような高額物件に住む富裕層が集まるこの地域で、住民発の新たな社会現象が生まれています。
ソウル江南の高級マンションが立ち並ぶ街並み
住民発「ウォンギョル会」の誕生と「格が合う結婚」の推進
事の発端は、2023年末にレミアン・ウォンベイリーの住民たちが自主的に立ち上げた「ウォンベイリー結婚情報会(通称「ウォンギョル会」)」です。これは、マンションの入居者やその子どもたちの縁組を目的とした小規模な紹介制の集まりとして始まりました。参加者は登録料20万ウォン、年会費30万ウォンを支払い、定期的に顔合わせの集まりに参加することで、「格が合う人同士」の出会いを促進していました。この会は、同じ生活水準や社会的背景を持つ人々が結婚相手を見つけるという、ある種の「階級婚活」の場として機能しています。
「ウォンギョル会」の波紋と拡大:他の高級アパートへの影響
ウォンギョル会の活動は、入居者の間で好評を博し、その評判は口コミで周辺の高級アパートにも広がり始めました。レミアン・ウォンベイリーと同じ瑞草区盤浦洞を代表する「アクロリバーパーク」や「レミアン・パスティージュ」、さらにはこの地区の元祖高級タワマンである「タワーパレス」など、他の著名な高級マンションでも同様の結婚会が設立されるに至りました。そして、2025年2月以降は、対象が他の江南地区へと広げられ、誰でも「一定の審査を通れば」これらの会への加入が認められるようになったのです。この動きは、韓国社会における富裕層の結婚観や、経済格差が婚姻に与える影響を浮き彫りにしています。
現代韓国社会の縮図としての「ウォンギョル会」
レミアン・ウォンベイリーから始まった「ウォンギョル会」の波紋は、単なる住民コミュニティの活動に留まらず、現代韓国社会における結婚、階級、そして不動産が密接に絡み合う現実の一端を示しています。これは、富裕層が自身のライフスタイルや社会経済的地位を維持・強化しようとする明確な意図を反映したものであり、今後の韓国社会における婚姻のあり方や、格差社会の問題を考える上で注目すべき動向と言えるでしょう。