近年、アメリカのハイテク関連株価指数ナスダックが史上最高値を更新し、巨大IT企業が世界経済において圧倒的な存在感を示しています。一方で、日本政府も国内の新興IT企業、すなわちスタートアップの育成に注力し、様々な支援策を打ち出していますが、経営コンサルタントの大前研一氏は「これでは有望な日本のスタートアップが誕生するとは到底思えない」と厳しく指摘しています。なぜ日本におけるスタートアップ企業は、その数が少なく、規模も“小粒”にとどまっているのでしょうか。大前氏の分析からその背景を探ります。
世界を席巻するアメリカ巨大IT企業の存在感
アメリカの半導体大手エヌビディアの時価総額は、2024年7月9日時点で4兆ドル(約600兆円)を超えました。これは、日本の東京証券取引所に上場する全3953社の合計時価総額(2024年6月30日時点、1012兆6000億円)の半分以上を、たった1社で占める計算になります。さらに、アメリカ経済を牽引する「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)にエヌビディアとテスラを加えた7社の時価総額は、東証上場企業全体の約2.5倍に達しており、その規模は日本の市場を遥かに凌駕しています。
かつてドナルド・トランプ大統領は、アメリカ製造業の復活と国内回帰を掲げ、貿易不均衡を理由に各国に高関税を課す政策を推し進めましたが、実際には世界の最前線で莫大な利益を上げているのは、こうしたアメリカの巨大IT企業です。仮に製造業がアメリカ国内に戻ったとしても、労働力や賃金の面で中国などには太刀打ちできないことは明白であり、今後も先進国経済の牽引役となるのは、新興のIT企業、すなわちスタートアップしかないという見方が強まっています。
日本のスタートアップ企業の規模がアメリカと比較して小さい現状を示すイラスト
形だけの日本政府のスタートアップ支援策
日本政府もまた、経済成長のエンジンとしてスタートアップの重要性を認識し、支援策を講じています。例えば、岸田文雄内閣は2022年を「スタートアップ創出元年」と宣言し、10兆円規模の大学ファンドを設立しました。また、石破茂内閣も今年、地方の高等専門学校発の起業を支援する方針を打ち出すなど、具体的な動きを見せています。
しかし、大前氏はこれらの施策の実効性に疑問を呈します。現在、日本のスタートアップ戦略の司令塔となるべき「スタートアップ担当相」は、赤澤亮正経済再生担当相が兼任しています。赤澤氏はかつてトランプ政権との関税交渉で大幅な譲歩を行った人物であり、スタートアップ関連業務は彼が兼任する8つもの担当分野の一つに過ぎません。このような体制では、スタートアップ育成という極めて重要な課題に対して、十分な専門性とリーダーシップを発揮できるとは考えにくいと大前氏は指摘します。
結論
アメリカの巨大IT企業が世界市場を席巻し、その価値を飛躍的に高めている一方で、日本のスタートアップ企業は「少なくて小粒」という現状にあります。政府は支援策を打ち出しているものの、その中心となる「スタートアップ担当相」の兼任体制や、過去の交渉実績などを見るに、本気で日本のスタートアップを世界レベルに引き上げるという強い意志が感じられないのが実情です。大前研一氏が指摘するように、現在の取り組みだけでは、国際競争力を持つ有望なスタートアップが日本から続々と誕生することは、極めて難しいと言えるでしょう。