シネマート新宿での限定上映で熱い反響を呼んだリー・ヤン監督作品『盲山』(ブラインド・マウンテン)が、その高評価を受け、9月5日よりアップリンク吉祥寺、Strangerでの上映に加え、近日中にシネマスコーレ、第七藝術劇場、京都シネマでも公開されることが決定しました。これに伴い、映画の核心に迫る、おぞましい人身売買の実態を映し出した本編映像も公開され、改めてその社会的な意義が注目されています。
衝撃の事実:中国での検閲と全面上映禁止
『盲山』は、中国のリー・ヤン監督が手掛けた、実話を基にしたとされる社会派ドラマです。本作は、第60回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品される国際的な評価を得ました。しかし、その内容が中国社会の暗部を深くえぐり出すものであったため、中国本国では約20か所に及ぶ厳しい検閲を受け、最終的には国内での全面上映禁止処分となりました。この事実は、映画が描き出す人身売買というテーマの深刻さと、それが内包する社会問題の根深さを浮き彫りにしています。
騙されて売られた大学生の「地獄の日々」
物語の主人公は、22歳の女性大学生パイ・シューメイ(ホアン・ルー)。“親切な若い”女性から仕事を紹介すると持ちかけられ、誘われるまま遠く離れた山間の村を訪れます。長く過酷な旅の末、眠りに落ちたシューメイが目を覚ますと、そこは見知らぬ農家でした。財布や身分証明書はなくなっており、仕事を紹介した女性の姿もありません。村人から、彼女が村に住む40歳の独身男性ホアン・デグイの花嫁として売られたと聞かされたシューメイは、自身が人身売買業者に騙されたことに気づきます。しかし時すでに遅く、“嫁”として奴隷のように扱われる、シューメイの想像を絶する地獄の日々が始まるのです。彼女は監禁され、度重なる暴行や虐待に耐えながら、脱出の機会を虎視眈々と狙い続けます。
誘拐され、見知らぬ男性の「嫁」として売られた大学生パイ・シューメイ(ホアン・ルー)が、抵抗むなしく引きずられる衝撃的な場面。映画『盲山』における人身売買の実態と女性への暴力が描かれている。
公開された本編映像が映し出す人身売買の一端
今回公開されたのは、映画の冒頭部分を切り取った本編映像です。鬱屈とした山奥の村に、薬を売る仕事のためにやってきたシューメイに、村人たちは好奇のまなざしを向けます。その視線には、どこか不穏な空気が漂っており、観る者にじわじわと不安感を植え付けます。不穏な空気の中、いつの間にか眠りに落ちてしまったシューメイが目を覚ますと、自分が見知らぬ男の“嫁”として売られたという衝撃の事実を聞かされることになります。このわずかな映像だけでも、人身売買というおぞましい犯罪の現実と、被害者が直面する絶望的な状況の一端を鮮烈に感じ取ることができ、映画全体のリアリティとメッセージの重さを改めて示しています。
『盲山』は、単なる映画作品に留まらず、現代社会に存在する深刻な人権問題、特に女性に対する人身売買というタブーに深く切り込んだ作品です。この度の全国拡大上映は、より多くの人々がこの問題に目を向け、考えるきっかけとなることでしょう。