参院選後の余波が続く永田町では、石破茂首相(68)が議席を大幅に減らしながらも続投の意欲を見せており、これに対し旧安倍派グループが「石破おろし」を激しく仕掛ける構図が続いています。参院選の敗北責任を問う形で早期の退陣を画策したものの、「石破辞めるな」デモや世論調査での支持率上昇といった動きにより、この「石破おろし」の第一弾は不発に終わりました。そうした中、反石破グループが次なる標的としたのが、世界経済に大きな影響を与えた日米関税交渉における政権の「失点」でした。
電撃的な交渉決着と初期の評価
トランプ大統領が推進する高関税政策に対し、石破首相はこれを「国難」と表現し、自身の“懐刀”である赤沢亮正経済再生担当相(64)を直ちに渡米させ、交渉に当たらせました。そして7月23日、日米間の関税交渉は電撃的な決着を見せます。その内容は、自動車などの関税率を従来の27.5%から15%に引き下げる代わりに、日本側が米産コメや自動車の市場開放、そして約80兆円規模の対米投資を確約するというものでした。
この合意に対し、一部からは「80兆円投資の利益の9割が米国に入る」として「不平等条約だ」との声も上がりました。しかし、先行き不透明な状況が続くよりは具体的な方向性が示されたという点で、日本経済界からの評価は概ね好意的でした。合意発表後の23日の株式市場では、日経平均株価が3.51%余りの大幅な急伸を見せるなど、経済の安定化への期待が一時的に高まる結果となりました。
「相互関税」適用後の齟齬と批判の噴出
しかし、この安堵は長くは続きませんでした。米国が8月7日に各国・地域への「相互関税」の適用を開始したことで、新たな問題が浮上したのです。日本政府はこれまで、15%未満の品目は15%に、15%以上の品目は据え置かれると説明してきました。しかし、実際に蓋を開けてみれば、一律で15%が上乗せされる形となることが判明し、日本側の認識と米国の実運用に大きな齟齬が生じました。
さらに、自動車に対する15%関税の実施時期も不透明なままであり、米政権との間で正式な合意文書が作成されなかったことも、与野党双方から強い批判を招くことになります。国民民主党の玉木雄一郎代表は自身のX(旧Twitter)上で、「アメリカにいいようにやられているだけではないのか。もし国民や国会に対して説明している内容と事実が異なるなら、不信任にも値する大問題。石破政権に説明を求めたい」と強い憤りを表明しました。これは、情報開示と説明責任の欠如に対する、永田町の厳しい視線を象徴する出来事でした。
赤沢担当相の緊急訪米と米側の対応
状況の深刻さを鑑み、赤沢経済再生担当相は直ちに再度渡米し、米側に日米間の関税率認識の修正を強く迫りました。8日時点の報道によると、この再交渉の結果、関税率の適用については米側が自らの非を認め、大統領令を修正する措置を取ることを確約しました。過大に徴収された関税分についても、8月7日に遡って払い戻しが行われることとなりました。
さらに、大統領令修正と同時に、自動車の関税引き下げに関する大統領令も発令されることが米側と確認されたと報じられました。赤沢氏は現地での会見で、「日米間の認識に齟齬はない」と強調し、問題の解決に向けて前進したことを示しました。
交渉の裏側と「マイル赤沢」の奮闘
ある政界関係者は、今回の石破・赤沢両氏への評価はまだ時期尚早としながらも、「叩かれるほどではないのではないか」と語ります。赤沢氏はこれまで、この関税交渉のために実に9回も渡米しており、これは友好国の中でも突出した回数です。今回もアポイントなしで飛び込むなど、その熱意は特筆すべきものです。米政権内では「またAKAZAWAが来たぞ」と半ばネタにされている節もあるようですが、このような粘り強い姿勢は決してマイナスには働かないと見られています。SNS上では「マイル赤沢」と揶揄され、渡米のたびにマイレージが貯まることを皮肉る声もありますが、本人はこれを否定しており、地味ながらも実直に職務を遂行しているとの評価もあります。
野党は合意文書の有無を重要視していますが、交渉相手が常識の通用しないトランプ大統領である点を考慮すると、「気が変わった」と言われれば合意文書も容易に反故にされかねません。したがって、赤沢氏をはじめとする日本の交渉チームが最も重視したのは、トランプ大統領の「特徴」を正確に掴むことでした。
赤沢氏が食い込んだのは、トランプ政権の要職であり、大統領の信頼も厚いラトニック商務長官でした。赤沢氏はこのラトニック商務長官と短期間のうちに「ラトちゃん」と呼び合う仲になるほどの関係を築き上げました。経済誌記者によると、「ラトニック商務長官の自宅に招かれ、トランプ大統領の特徴をみっちりレクチャーしてもらった。想定問答のように、トランプ大統領が『これを要求してきたら、こう返すんだ』というところまでやった」と語られています。赤沢氏のこうした努力を公にアピールするミーハーな一面は不安視されることもありますが、経済界からの赤沢氏に対する評価は決して悪くありません。
 トランプ大統領から贈られたMAGA帽をかぶり、笑顔を見せる赤沢亮正経済再生担当相。日米貿易交渉の舞台裏での親密な一幕を捉えた写真。
トランプ大統領から贈られたMAGA帽をかぶり、笑顔を見せる赤沢亮正経済再生担当相。日米貿易交渉の舞台裏での親密な一幕を捉えた写真。
永田町と経済界からの評価:その明暗
今回の難題である関税問題を見事にまとめ上げた赤沢氏ですが、永田町内での評価は一筋縄ではいきません。政治評論家の有馬晴海氏は、赤沢氏が党内ではノーマークな存在だったものの、石破グループとして重用された経緯に触れつつ、「趣味は石破」と公言する赤沢氏が、「石破さんはタバコと赤沢はやめられない」と周囲に語り、自身が石破首相にとって不可欠な人材であることをアピールしていると指摘します。
有馬氏によると、「確かにアメリカとは一生懸命に交渉したんでしょうが、会談後に車に乗り込むときに親指を上げる“サムズアップ”をしたり、トランプ大統領とMAGA帽子を被って喜んだり、ラトちゃんと呼んだりと浮かれやすいところがある。永田町では、はしゃぐ人間はダメなんです。本人は交渉をまとめ上げたことで能力が高いと自負しているのでしょうが、周囲の評価はそれほど高くはないですね」と、永田町内の厳しい見方を明かしています。
まとめと今後の展望
日米関税交渉という国際的な難題において、赤沢経済再生担当相は粘り強い交渉を展開し、一度は生じた齟齬を米側に認めさせ、修正へと導きました。この一連の動きは、石破政権にとって大きな試練であると同時に、赤沢氏個人の交渉能力を示す機会でもありました。経済界からは一定の評価を得つつも、永田町においてはその政治家としての立ち居振る舞いや評価は依然として複雑な様相を呈しています。今後、この関税問題の最終的な着地と、それに伴う石破政権、そして赤沢氏自身の永田町における評価がどのように変化していくのか、引き続き注目が集まります。
 
					




