一点集中術が解き明かす:マルチタスクが奪う集中力、記憶力、そして生産性

スマートフォン、インターネット、SNS──現代は注意を散らすものが溢れています。この情報過多な世界で「本当にやりたいこと」を実現するためには、タスクからタスクへと次々に飛び移り、結局何も達成できない日々から脱却し、「一度に一つの作業」に徹底的に取り組む「一点集中」が不可欠です。世界的ベストセラーの新装版『一点集中術――限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』より、その重要な教えを紐解きます。

デジタルデバイスがもたらす注意散漫と集中力低下の様子を表すデジタルデバイスがもたらす注意散漫と集中力低下の様子を表す

マルチタスクが招く集中力と生産性の低下

頭の中で一つの思考の糸を立ててはまた回収するという行為を繰り返していると、脳は著しく疲弊します。この「タスク・スイッチング」(同時に複数の作業を行っているように見えても、実際には作業間の切り替えを繰り返している状態)は、一つの作業に没頭している時よりもミスを犯しやすく、情報の効率的な処理や保管を阻害します。研究によって、マルチタスカーは集中力が低いだけでなく、生産性も低いことが明らかになっています(※1)。気が散ることで脳が疲弊し、本来の能力を発揮できなくなるのです。

記憶力・理解力への悪影響:世代間の誤解を解く

「若い世代はマルチタスクが得意なのでは?」という疑問がよく聞かれます。ハイテク社会で育った世代には、本当に同時に複数のことをこなす能力が自然と身についているのでしょうか?残念ながら、そうではありません。グーグルの元最高情報責任者(CIO)ダグラス・メリルが指摘するように、「周知の事実」が誤っている場合があるのです(※2)。高校生や大学生の記憶量の限界は成人と同程度であり、タスクの切り替えばかりしていると、年齢に関わらず記憶力も理解力も低下します。情報を正確に把握できなければ、それを他の状況で活用したり応用したりすることは困難になります。だからこそ、集中力を身につけることは、現代を生きるための重要な技術だと言えるでしょう。

脳の前頭前野の「奪い合い」:科学的根拠

バーモント大学の研究では、学生たちのノートパソコンを調査した結果、課題に取り組んでいる時間の42パーセントもの間、履修科目と無関係のソフトウェアアプリケーションが起動していたことが判明しました。大学生の注意散漫は、もはや「疫病レベル」とまで形容される実態です。若い世代は「自分は一度に複数のものに注意を向けられる」と過剰な自信を持つ傾向がありますが(※3)、二つの複雑なタスクを同時にこなそうとすると、脳の同じ部位──前頭前野──の「取り合い」が生じます。このプロセスは無意識に行われるため、脳が適切に機能しているかどうかを自分で把握するのは非常に困難です(※4)。

授業中や宿題中にテキストメッセージを打ったり、インターネットに接続したりすることは、学業成績の低下に直結します。ハーバード大学の研究によれば、注意が分散すると、情報が記号化されにくくなり、記憶力の低下や、最終的には何も思い出せない事態を招く可能性があります。いわゆる「マルチタスク」行為は「認知処理能力を低下させ、より深い学習を妨げる」ことが科学的に証明されているのです(※5)。

結論

現代社会において、マルチタスクは私たちの集中力、記憶力、そして生産性を著しく低下させる要因であることが、脳科学的な観点からも明確に示されています。年齢や世代に関わらず、タスク・スイッチングは脳に過度な負担をかけ、学習や情報処理の効率を悪化させます。この「デジタル時代の病」から脱却し、本来の能力を引き出すためには、意識的に「一点集中」の習慣を身につけることが、個人が生産性を高め、質の高い学習や仕事を実現するための鍵となるでしょう。


参照文献

  1. Institute for the Future and Gallup Organization, Managing Corporate Communication in the Information Age (Lanham, MD: Pitney Bowes, 2000).
  2. Douglas Merrill, “Why Multitasking Doesn’t Work,” Forbes (August 17, 2012). https://www.forbes.com/sites/douglasmerrill/2012/08/17/why-multitasking-doesnt-work/
  3. Larry D. Rosen, L. Mark Carrier, and Nancy A. Cheever, “Facebook and Texting Made Me Do It: Media-Induced Task-Switching While Studying,” Computers in Human Behavior 29, no. 3: 948-958.
  4. Annie Murphy Paul, “The New Marshmallow Test: Resisting the Temptations of the Web,” e Hechinger Report (May 3, 2013). http://hechingerreport.org/the-new-marshmallow-test-resisting-the-temptations-of-the-web/
  5. Reynol Junco and Shelia R. Cotten, “No A 4 U: The Relationship Between Multitasking and Academic Performance,” Computers & Education 59, no. 2: 505-514.