宮城県丸森町:令和元年東日本台風からの復興と終わらない防災最前線

宮城県の南端に位置する丸森町は、2019年10月に上陸した台風19号(令和元年東日本台風)によって壊滅的な被害を受けました。この「想定外」の豪雨災害では、11名の尊い命が奪われ(災害関連死含む)、1名が行方不明となる甚大な人的被害が生じました。さらに、町のハザードマップが示すように、中心部のほぼ全域が水害や土砂災害の危険性を抱えており、今後も継続的な警戒と対策が不可欠です。災害の最前線にあるこの町が、いかにして復興を進め、将来の脅威に立ち向かっているのか。当時の被害状況を振り返りつつ、丸森町の防災への取り組みに迫ります。

令和元年東日本台風:丸森町を襲った「想定外の豪雨」

2019年10月12日午後、大型で非常に強い勢力を保ったまま本州に接近した台風19号は、宮城県丸森町で昼過ぎから猛烈な雨へと変化しました。阿武隈川の支流である五福谷川の流域に住む宍戸克美さん(70)は、当時の状況を「時間雨量が40ミリを超えたあたりで『大変だ』と思いましたが、まさか堤防が決壊するとは想像できなかった。まさに『想定外』でした」と語ります。

自宅付近では15時台から30ミリの激しい雨が降り続き、元消防署員で防災意識の高い宍戸さんが避難を始めたのは、すでに降雨量が60ミリに達していた12日19時頃でした。急激な雨量の上昇に加え、夜間であったため状況判断は極めて困難を極めました。さらに、周辺に高台がないことも避難行動を阻む要因となりました。

2019年台風19号の被害状況を示す資料を手に、当時の丸森町での豪雨体験を語る宍戸克美さん2019年台風19号の被害状況を示す資料を手に、当時の丸森町での豪雨体験を語る宍戸克美さん

「緊急避難として、川の反対方向に車で進みました。しかし、大きな通りに出ても周囲は冠水状態。車を止めてどこに避難するか悩んでいたところ、近くに住む知人から声をかけてもらい、避難させてもらいました」と宍戸さんは振り返ります。

自宅付近で13日未明までに降った雨量は実に600ミリにも及びました。丸森町の年間降水量が約1200ミリであることを考えると、わずか1日で半年分の雨量が降り注いだ計算になります。翌朝、町の中心部は広範囲にわたり浸水し、町役場はわずかに高台にあったため浸水は免れたものの、駐車場にあった車は全て水没しました。

令和元年東日本台風により2019年10月13日13時に広範囲で浸水した丸森町中心部の航空写真令和元年東日本台風により2019年10月13日13時に広範囲で浸水した丸森町中心部の航空写真

宍戸さんの自宅は191センチもの床上浸水となり、「自宅裏では70メートルほど堤防が決壊し、住宅は全損しました。1階は家具が散乱し、ヘドロだらけ。しばらくは家族6人が2階に垂直避難して生活しました」と当時の過酷な状況を語りました。

甚大な被害とその後の丸森町の取り組み

丸森町が受けた被害は、死者11人(災害関連死1人含む)、行方不明者1人という人的被害に加え、建物の被害は全壊115戸、大規模半壊248戸を含む1342戸に上りました。河川や道路などのインフラ、そして農地への被害も広範囲にわたり、被害総額は472億円余りという甚大な額に達しました。役場のすぐ近くにあった病院も浸水し、再開には約2カ月を要したとされています。

令和元年東日本台風の豪雨翌朝、浸水した宮城県丸森町役場周辺の様子令和元年東日本台風の豪雨翌朝、浸水した宮城県丸森町役場周辺の様子

あれから間もなく6年が経過しますが、近年、日本各地で豪雨災害が頻発している状況を受け、丸森町は現在も災害対策に余念がありません。しかし、そこには依然として悩ましい現実も存在します。それは、丸森町のハザードマップが示すように、町の中心部のほぼ全域が浸水などのリスクのある場所に指定されているという事実です。これは、町全体が常に災害の脅威にさらされていることを意味し、防災への恒常的な意識と対策が求められています。

丸森町は、この経験から得られた教訓を活かし、堤防の強化、避難経路の確保、地域住民への防災意識向上など、多角的なアプローチで災害に強いまちづくりを進めています。しかし、「想定外」を乗り越えるための道のりは、まだ道半ばです。

まとめ:災害多発時代における丸森町の挑戦と教訓

宮城県丸森町を襲った令和元年東日本台風は、その甚大な被害と「想定外」の豪雨により、日本の防災課題を浮き彫りにしました。わずか1日で半年分の雨量が降り注ぎ、堤防が決壊し、町全体が水没した経験は、自然の猛威とそれに対する人間の脆弱性を痛感させます。しかし、丸森町は単なる被災地としてではなく、その教訓を活かし、常に防災の最前線で新たな挑戦を続けています。

ハザードマップが示す高いリスクを抱えながらも、地域住民一丸となって対策に取り組む姿勢は、災害多発時代における全ての自治体にとって貴重な教訓となります。今後も、丸森町の復興と防災への取り組みは、日本全国の防災意識を高める上で重要な役割を果たし続けるでしょう。私たちは、この経験から学び、一人ひとりが適切な避難行動を理解し、地域社会全体で災害に強い未来を築くことの重要性を再認識する必要があります。

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