韓国社会において、高齢者による凶悪犯罪の急増が深刻な社会問題として浮上しています。近年、高齢者が関与する残忍な事件が相次ぎ、その背景にある構造的な問題に注目が集まっています。経済的困窮、社会的孤立、精神的な健康問題などが複雑に絡み合い、高齢化社会が抱える新たな課題を浮き彫りにしています。
近年急増する高齢者による凶悪犯罪事例
最近の衝撃的な事件が、この問題の深刻さを物語っています。去る7月25日夜、ソウル市城北区の碁会所では、焼酎を飲んでいた70代の男が刃物を振り回し、自身を含む3人が重傷を負う事件が発生しました。この男は自害を試みたと見られ、意識不明の重体です。また、7月20日には仁川市松島で62歳の男が自作の銃で息子を殺害、自宅には爆弾まで設置しており、周辺住民105人が緊急避難する事態となりました。さらに、5月には68歳の男がソウル地下鉄5号線の車内で放火未遂を起こし、大惨事につながる寸前でした。これらの事件は、高齢者による凶悪犯罪がもはや特殊なケースではなく、社会全体で向き合うべき課題となっている現状を示しています。
統計データが示す深刻な高齢者犯罪の現状
韓国法務部が発表したデータによると、高齢者による凶悪犯罪の増加傾向は統計上も顕著です。2023年の時点で65歳以上の受刑者数は3483人に達し、2017年(1797人)と比較して約2倍近くに増加しました。これは同時期の全受刑者数の増加率(13%)の7倍を超える伸び率です。特に殺人、性的暴行、暴力行為など、生命や身体を脅かす凶悪犯罪における高齢者の割合が急増しており、2023年には殺人による全受刑者3083人のうち19%が65歳以上の高齢者でした。
社会全体の凶悪犯罪件数が2019年の26万7382件から2023年には22万3908件へと16.3%減少しているにもかかわらず、同じ期間に65歳以上の高齢者による凶悪犯罪は2万3522件から2万6252件へと11.6%増加しています。これは高齢者人口の増加率(4.9%)を2倍以上も上回る数字であり、高齢化の進展とは異なる要因が犯罪増加に影響していることを示唆しています。
韓国における高齢者凶悪犯罪の増加傾向を示すグラフ
専門家が分析する背景:経済的・社会的要因
専門家らは、このような高齢者犯罪の増加が「適切な仕事や社会的な役割を持たずに過ごす高齢者が増えたことによる現象」だと分析しています。高麗サイバー大学警察学科のイ・ユンホ碩座教授は、平均寿命が延びる一方で60代、70代での早期退職が多いため、多くの高齢者が経済的・社会的に不安定な立場に置かれていると指摘します。この不安定さが「社会的剥奪感や疎外感」を生み出し、それが暴力の引き金になっているという見方です。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、韓国の高齢者貧困率は35.6%と加盟国の中で最も高く、また高齢者の自殺率も人口10万人あたり39.2人とOECD加盟国中1位であり、高齢者の置かれた厳しい現状が背景にあるとされます。
精神的健康問題とオンラインプラットフォームの影響
高齢者層のメンタルヘルスの悪化も、凶悪犯罪を引き起こす一因とされています。韓国保健福祉部の高齢者実態調査によると、高齢者の5人に1人がうつ病を患っており、その中には暴力的衝動や自傷行為のリスクを抱える者も少なくありません。成均館大学社会福祉学科の朴昇熙名誉教授は、「社会的な関係が崩壊した状態で金銭的な苦しさまで重なった高齢者は、孤立感と怒りが暴力として表れやすい」と指摘しています。
さらに、YouTubeなどのオンラインプラットフォームの普及が、犯罪の手口を容易に調べられる環境を作り出し、高齢者の凶悪犯罪増加に影響を与えているとの分析も出ています。実際に、仁川で自作の銃による殺人事件を起こした男は、YouTubeで銃や爆弾の製造方法を詳しく知ったと警察に供述しています。
高齢者犯罪への対策:統合的アプローチの必要性
韓国犯罪学研究所のヨム・ゴンリョン所長は、高齢者の犯罪問題は「高齢化社会において、高齢者の社会的役割と居場所を十分に準備しなかった構造的問題の結果」であると強調しています。この深刻な課題を解決するためには、専門家らは早期治療と社会活動への参加誘導が急がれると指摘しています。具体的には、高齢者層の社会参加を促し、精神的・経済的な支援を組み合わせた統合型の福祉政策の推進が不可欠です。単なる法執行だけでなく、社会全体が高齢者の抱える問題に寄り添い、孤立を防ぎ、彼らが社会の一員として活躍できる場を提供することが、高齢者犯罪を抑制し、より安全な社会を築くための鍵となるでしょう。