Googleが「パスワード不要」を提唱:新認証システム「パスキー」でサイバー攻撃を防ぐ

Googleは、世界中で利用されているパスワード認証が現代のサイバー脅威に対して限界を迎えていると警告し、ユーザーに対して「パスワードの時代は終わった」と強く訴えかけています。その代替策としてGoogleが最も推奨しているのが「パスキー」です。パスキーはパスワードよりもはるかに安全性が高く、特に巧妙化するフィッシング詐欺の被害を未然に防ぐ効果が期待されています。この記事では、パスワードを使い続けることのリスクと、パスワードに代わる安心安全な認証方法であるパスキーの仕組み、そしてその導入の重要性について詳しく解説します。

パスワード時代の終焉:現代の脅威に対抗できない旧式認証

2025年6月、Googleのプライバシー・安全・セキュリティ担当副社長であるエヴァン・コツヴィノス氏は、同社の公式ブログで「Googleはパスワードを完全に廃止したいと考えており、そのためにパスキーのような最新の認証方法の使用を強く推奨する」と明言しました。

50年以上もの歴史を持つパスワードは、ユーザー認証の基本的な手段として広く使われてきましたが、現代においては複数の深刻な脆弱性を抱えるリスクの高い認証方法となっています。高度なツールを駆使し、日々進化するサイバー犯罪者の攻撃手法に対して、単なる「合言葉」に過ぎないパスワードではもはや防御が不可能になっているのが現状です。パスワードに代わる次世代の認証方法として、今最も注目されているのがパスキーです。日本国内でも、今年に入りフィッシング詐欺による不正アクセスで甚大な被害を受けた証券会社が、相次いでパスキーの導入を表明するなど、その重要性が高まっています。

「自分は大丈夫」という誤解:巧妙化するフィッシング詐欺の罠

「新しい機能やアプリを使うのは面倒だから」とパスワードを使い続けることは、不正アクセスのリスクが高い状態を維持することに他なりません。サイバー犯罪者の技術力は年々向上しており、脆弱なパスワードだけを頼りにしていると、いずれ重大な被害に遭遇する可能性が高まります。

多くの人は「自分はデジタルリテラシーが高いので、フィッシング詐欺には引っかからない」と思い込みがちです。しかし、近年急増している詐欺サイトや詐欺メールは、本物と区別がつかないほど精巧に作られており、見破ることが極めて困難になっています。さらに悪質なのは、現在のフィッシング詐欺が、アカウント情報を盗み取った後で正規のウェブサイトにユーザーをリダイレクトさせる手口を用いることです。これにより、ユーザーは自分の情報が盗まれたことに気づきにくく、被害が拡大するまで時間がかかってしまうのです。

また、ユーザーがどれほど注意していても、利用しているサービスの提供側からパスワードや個人情報が漏洩するリスクも存在します。小規模な情報漏洩は日常的に発生しており、大手企業からの大規模な漏洩も珍しくありません。「パスワードは漏洩するもの」という認識を持つことが、現代のオンラインセキュリティにおいては非常に重要です。

オンラインセキュリティとパスキーへの移行を象徴する画像オンラインセキュリティとパスキーへの移行を象徴する画像

パスワード漏洩が招く具体的な被害と深刻な影響

では、一度パスワードが漏洩し、不正アクセスを許してしまった場合、どのような被害が起こりうるのでしょうか。

まず、今年多発しているのが証券会社への不正アクセスです。多くの人は「自分の口座からしか資金を動かせないから大丈夫」と油断しがちですが、サイバー犯罪者は流動性の低い外国株などを不正アクセスした口座で大量に購入し、高値で売り払うことで利益を得る手口が確認されています。

SNSアカウントの乗っ取りも深刻な問題です。乗っ取られたアカウントから友達リストに登録されている連絡先に次々とメッセージが送られ、Zoom会議へ誘導されるケースが報告されています。さらに、生成AIを使って作成されたディープフェイク動画が悪用され、相手を騙して暗号資産を窃取するなどのネット詐欺も広まっており、友人や知人が被害に遭えば、人間関係にも深刻な支障をきたす可能性があります。

銀行口座への不正送金は困難な場合でも、銀行口座と紐付いている電子マネーやQRコード決済、ポイントサイトなどへの不正アクセスは容易に行われます。これにより、不正に資金が引き出されたり、ギフト券などが購入されたりするケースが多発しています。さらに、マイページにアクセスされれば、ユーザーの氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報が簡単に手に入り、それらの情報がリスト化されてダークウェブで売買されてしまうこともあります。

パスワードを使い続けているだけで、たとえフィッシング詐欺に直接遭わなくても、このような多様なサイバー犯罪に巻き込まれるリスクが常にあるのです。

パスキーとは何か?パスワードを超える新世代認証の仕組み

パスキーは、FIDO(Fast IDentity Online)アライアンスが推進するWebAuthn(Web Authentication)標準に基づいた、パスワードに代わる新しい認証技術です。パスワードとは異なり、サーバー側に秘密情報を保存しない「公開鍵暗号方式」を利用している点が最大の特徴です。

ユーザーがパスキーを作成すると、デバイス上に秘密鍵が生成され、認証サーバーには公開鍵が登録されます。ログイン時には、デバイス上の秘密鍵と生体認証(指紋、顔認証など)やデバイスの画面ロック認証(PINなど)を組み合わせることで本人確認が行われ、これによりフィッシング詐欺に対して極めて強い耐性を持ちます。詐欺サイトが公開鍵と秘密鍵のペアを盗むことは不可能であり、パスワードのように情報が漏洩するリスクが大幅に低減されます。

パスキーの認証プロセスとセキュリティの仕組みを図解したイラストパスキーの認証プロセスとセキュリティの仕組みを図解したイラスト

パスキーは、異なるデバイス間での同期も可能であり、一度設定すればスマートフォン、タブレット、PCなど複数のデバイスで安全かつ簡単にログインできるようになります。日本国内でも大手IT企業や金融機関を中心にパスキーの導入が進んでおり、将来的にはパスワードに代わる標準的な認証方法となることが期待されています。

結論

パスワードは、現代の高度なサイバー攻撃や巧妙なフィッシング詐欺の手口に対して、もはや有効な防御策とは言えません。個人の情報や資産を守るためには、古い認証方法に固執せず、より安全で便利な次世代認証システムであるパスキーへの移行が不可欠です。パスキーの導入は、オンラインでのセキュリティを飛躍的に向上させ、安心してデジタルサービスを利用するための重要な一歩となるでしょう。

参考文献

  • NPO法人デジタルリテラシー向上機構
  • Google 公式ブログ (2025年6月発表)