大分県南石垣支援学校給食事故:林香織さんの訴えと再発防止への強い願い

2016年に大分県立南石垣支援学校で発生した痛ましい給食事故により、当時高等部3年生だった林郁香さん(当時17歳)が命を落としました。この事故から9年を迎えようとする中、郁香さんの母である林香織さん(55歳)が同校で講演を行い、約100人の教職員と保護者に向けて、娘を失った深い悲しみと事故の再発防止への切実な願いを訴えました。

郁香さんは2016年9月15日、校内のランチルームで給食を喉に詰まらせ、意識不明の状態に陥り、その17日後に死亡が確認されました。重度の知的障害を持っていた郁香さんには給食時の見守りが必須とされていましたが、当時担当教師はその場を離れていたことが明らかになっています。この悲劇を二度と繰り返さないため、そして多くの人々に事故の教訓を伝えるため、香織さんは2018年から県内外で20回以上もの講演活動を続けてきました。

香織さんは講演で、郁香さんの生い立ちやかけがえのない思い出を語り、事故発生当時の詳細な状況についても説明しました。声を震わせながら「郁香を思い出さない日は一日もありません」と語った香織さんは、「もう二度と悲しい事故が起こらないよう、誰もが最期まで自分らしく幸せに生きられるような社会になることを願っています」と、聴衆に強く訴えかけました。この言葉は、単なる個人的な悲しみを超え、全ての特別支援学校における安全対策の重要性を浮き彫りにしました。

大分県立南石垣支援学校で講演中の林香織さん。給食事故の再発防止を訴える大分県立南石垣支援学校で講演中の林香織さん。給食事故の再発防止を訴える

大分県教育委員会によると、南石垣支援学校は2026年4月に別府市野田の旧県立別府羽室台高校へ移転し、「県立別府やまなみ支援学校」と改称される予定です。香織さんは、事故が起きた場所に足を運ぶことの辛さをにじませつつも、「ここに来れば、郁香がいたことを思い出せる場所だった」と語り、移転後も新しい学校が「安心安全な学校になることを願っています」と、未来への希望を表明しました。

同校の堂脇真理子校長は、今回の講演を受けて、「学校として守るべき命を守りきれなかったことに責任の重さを痛感している」と述べ、深い反省の意を示しました。校長はさらに、「再発防止に向けた取り組みを決して怠らず、みんなに信頼される学校を目指していく」と強く決意を語り、今後も児童生徒の安全確保に全力を尽くす姿勢を明確にしました。

この講演は、給食時の窒息事故という特定の事象に留まらず、特別支援学校における見守り体制の強化、そして障害を持つ子どもたちの安全な生活環境を社会全体で支えることの重要性を改めて問いかけるものです。林香織さんの訴えは、学校現場だけでなく、地域社会全体に対し、安心して生きられる社会の実現に向けた継続的な努力を促しています。


参考文献