世田谷の高級マンションに重大な欠陥と違法建築が発覚:居住者立ち退き、行政のお墨付きも無意味に

もし、あなたが現在所有している、あるいは住んでいるマンションに「重大な欠陥や違法建築が見つかった」と突然告げられたら、どうするでしょうか。大都市圏を中心に中古物件を含むマンション価格が高騰する中、多くのビジネスパーソンにとって都心のマンションはもはや「高嶺の花」です。しかし、高額な住宅ローンを組んでようやく手に入れたマンションが、実は欠陥だらけの「コンクリートの塊」である可能性は否定できません。大手デベロッパーの「自信作」とされたマンションでさえ、いま、重大な欠陥と違法建築が発覚し、大きな注目を集めています。どのマンションにも同様の問題が潜んでいるかもしれないこの事態は、まさにマンション住民にとって「自分ゴト」として考えるべき深刻な問題と言えるでしょう。

東急グループ総力結集の優良マンションが「廃墟同然」に

問題のマンションは、東京都世田谷区に位置する「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」です。施工を東急建設、売主を東急不動産、分譲後の管理を東急コミュニティー(TC)が担当した、まさに東急グループが総力を挙げて手掛けたマンションでした。1998年に竣工し、全49戸、総床面積は約4100平方メートル。閑静な住宅街に囲まれ、東急世田谷線若林駅から徒歩数分、幹線道路の環状7号線沿いという抜群の立地条件から、高い人気を誇っていました。

さらに特筆すべきは、このマンションが「優良建築物等整備事業」の対象となり、国、東京都、世田谷区から総額約1億5000万円もの補助金が交付されていた点です。いわば、行政からも「お墨付き」を与えられたはずの高級マンションでした。しかし、現在、住民は全員立ち退き、マンションは「廃墟同然」と化しています。2018年以降、耐震性に関する深刻な欠陥や「日影規制違反」といった違法建築が相次いで見つかったためです。

耐震補強の鉄骨が取り付けられ廃墟化した東急ドエル・アルス世田谷フロレスタの外観耐震補強の鉄骨が取り付けられ廃墟化した東急ドエル・アルス世田谷フロレスタの外観

発覚した具体的な欠陥と違法建築の内容

マンションコンサルタントの井田健氏の事務所が建物調査時に撮影した写真からは、その深刻な状態が明らかになります。例えば、水道管やガス管などを収納するマンションの「地下ピット」には、排水機能が不全だったため床一面に水が溜まっていました。建物を支える鉄筋コンクリートの梁は、配管などを通すために後から穴を貫通させる「コア抜き」が実施されましたが、その際に鉄筋が切断され、断面がむき出しのまま放置されたことで錆びつき、強度が大幅に損なわれていました。

それだけではありません。2022年の再調査では、さらに重大な違法建築が発覚しました。通常、建物の図面と実際の方角は一致しているはずですが、同マンションでは、図面の北の方角が実際の方角よりも西に約14度もずれていたのです。この結果、建築基準法で定められている日影規制や「高度斜線規制」をオーバーし、マンションや周辺住民の日照権などを侵害する状態になっていました。こうした一連の問題を受け、202X年6月には管理組合と一部の区分所有者が、建て替え義務の確認を求める訴えを起こしています。

マンション購入者が学ぶべき教訓

「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」の事例は、私たちマンション購入者や既存の所有者に多くの重要な教訓を与えます。まず、大手デベロッパーが手掛け、行政のお墨付きがあったとしても、重大な欠陥や違法建築のリスクはゼロではないということです。高額な住宅ローンを組み、人生最大の買い物を検討する際には、ブランド名だけで判断せず、常に慎重な姿勢が求められます。

次に、購入前には専門家による建物診断や、既存物件であれば管理組合の議事録などを詳細に確認するなど、徹底した情報収集とリスク評価が不可欠であるという点です。また、入居後も定期的な建物診断や修繕計画への積極的な関与を通じて、自身の資産を守る意識が重要になります。この事例は、マンションの安全性と信頼性は、購入者自身が積極的に情報を求め、問題意識を持つことで初めて確保されるということを強く示唆しています。

参考文献

  • 記事中で引用された情報源に基づく。