京都・亀岡に「廃墟」が息吹く:「A HAMLET」が描く新しい暮らしの形

近年、全国各地で空き家問題が深刻化する中、古くなった建物や使われなくなった「廃居」に新たな価値を見出し、魅力的な住まいや仕事場、さらには文化的な拠点へと再生させる動きが注目されています。本記事では、そうした「広がる新しい暮らし方」を追求する本連載の第13回として、京都府亀岡市大井町並河で進行中のユニークな集落再生プロジェクト「A HAMLET」に焦点を当てます。このプロジェクトを手掛けるのは、「京都一ファンキーな不動産会社」を自称する株式会社川端組の川端寛之さん。彼らが「廃墟」を「宝」へと変える情熱と独自の哲学を紐解きます。

京都に息づく「廃居」再生のパイオニア、川端組の挑戦

筆者の印象では、関西、特に京都には世間一般でいうところの「廃墟」をこよなく愛し、その潜在的な価値を見出す人々が多く存在します。その中心人物の一人が、株式会社川端組の川端寛之さんです。彼との最初の出会いは、京都市中京区に誕生した謎の空間「共創自治区SHIKIAMI CONCON」でのこと。細長い土地の中央に立つ3軒長屋の周囲に鉄骨の柱と梁を建て、その上にコンテナを配置するという斬新なアプローチは、「壁がなくても建物は成り立つ」という常識を覆す衝撃的なものでした。これは、川端組が単なる不動産会社ではなく、既存の概念にとらわれない発想で空間を再定義するエキスパートであることを示しています。

昭和の情緒が残る「A HAMLET」の魅力と再生の哲学

川端さんが京都周辺で手掛ける集落再生プロジェクトの中でも、特に目を引くのが亀岡市大井町並河に位置する「A HAMLET」です。この名称はシェイクスピアの作品名ではなく、「とある集落」という意味が込められています。平屋が整然と建ち並び、まるで時間が止まったかのような昭和の下町を想起させる独特の雰囲気が漂う場所です。現在、改修作業が進行中ですが、建物によってはあえてその「廃墟感」を残すことで、唯一無二の魅力を創出しています。これは、ただ新しいものに作り替えるのではなく、古いものの持つ歴史や記憶を尊重し、多様な再生のあり方があることを教えてくれる、川端組ならではの哲学が息づいています。

京都亀岡の「A HAMLET」プロジェクト、路地を挟んで並ぶ再生途中の長屋の風景京都亀岡の「A HAMLET」プロジェクト、路地を挟んで並ぶ再生途中の長屋の風景

“ここにしかない風景”への情熱と大家との出会い

「A HAMLET」プロジェクトの始まりは、川端さんが偶然通りすがりに出会った昔ながらの住宅群でした。当時、彼は亀岡が「霧のまち」であることに着想を得た「霧霧(キリム)」という集落再生プロジェクトに携わっていました。これは「DIY可」「小商い可」といった柔軟な貸し方で、予算をかけずに古くなった賃貸住宅群を再生する試みです。その最中に、「A HAMLET」の集落のすぐ近くを通りかかった川端さんは、一目見てその「ここにしかない景色」に強く惹きつけられました。再生は難しいかもしれないという思いを抱きつつも、入居者募集の看板を頼りに大家さん宅を訪ね、「募集の手伝いだけでもさせてもらえないか」と直談判したのです。この情熱と行動力が、今日の「A HAMLET」へと繋がる第一歩となりました。

まとめ:未来へ繋ぐ「廃居」再生の可能性

京都府亀岡市で進む「A HAMLET」プロジェクトは、単なる空き家対策に留まらず、地域の歴史や文化、そして人々の記憶を内包する「廃居」に新たな命を吹き込む試みです。川端組の川端寛之さんの「廃墟を宝とする」という独自の視点と、既存の枠にとらわれない柔軟な発想は、私たちが今後の住まい方やコミュニティのあり方を考える上で、非常に示唆に富むものです。このプロジェクトが成功することで、亀岡に新たな魅力が加わるだけでなく、全国の同様の課題を抱える地域にとって、持続可能な地域活性化モデルの一つとして大きな期待が寄せられています。

参考文献