ソン・フンミンの傘騒動、NYTが報じる韓国社会のジェンダー問題の深層

米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は8日、サッカー界のスター選手ソン・フンミン氏(33)を巡る「傘騒動」を取り上げ、「1枚の写真が韓国の深刻なジェンダー問題を表面化させた」と報じました。この出来事は、韓国社会に根深く存在するジェンダー間の認識の違いや対立を浮き彫りにし、国内外で大きな議論を巻き起こしています。

「傘騒動」の勃発とその波紋

今回の騒動は8月3日、ソウル・ワールドカップ・スタジアムで行われた、ソン・フンミン選手がトッテナム・ホットスパーFC所属選手として最後の親善試合を終えた後の出来事から始まりました。雨の中でインタビューを受けているソン選手の姿を捉えた写真がインターネット・コミュニティー・サイトに掲載されると、一気に論争が巻き起こったのです。写真には、ソン選手が片手にマイクを持ち、もう一方の手を背中に回している姿と、その隣で女性リポーターがソン選手のために傘を差している様子が写っていました。比較対象として、同じインタビューを受けていたチームメートのベン・デイビス選手が自ら傘を持っていたことも、議論に拍車をかけました。

雨の中、インタビューを受けるソン・フンミン選手。隣の女性リポーターが傘を差し、チームメートのベン・デイビス選手は自ら傘を持つ様子が韓国のジェンダー問題としてニューヨーク・タイムズに報じられた。雨の中、インタビューを受けるソン・フンミン選手。隣の女性リポーターが傘を差し、チームメートのベン・デイビス選手は自ら傘を持つ様子が韓国のジェンダー問題としてニューヨーク・タイムズに報じられた。

この写真を見たネットユーザーからは、「韓国で男性が女性にどのように接しているかを示している」「西洋の男性は本能的に女性に思いやりがある」といった批判的な意見が上がる一方で、「写真1枚で過度な解釈をしてはならない」と擁護する声も聞かれ、激しいネット論争へと発展しました。ソン選手は当時、両手にマイクやその機材などを持っており、傘を持つのが困難であったことが後に明らかになったにもかかわらず、この論争はなかなか収まりませんでした。

NYTが指摘する韓国のジェンダー問題

NYTは、ソン・フンミン選手が普段の「礼儀正しい」という評判とは相反する非難を浴びたことに注目。「『ソン・フンミンは他の韓国人男性たちと同じようにマナーに欠け、女性を尊重する気持ちが不足している』というネットユーザーや、『西洋の男性たちの方がマナーが良く、結婚するのにいい』と結論付けるネットユーザーもいた」と報じ、この騒動が単なる個人の行動批判に留まらず、より広範なジェンダー観の対立へと発展している状況を指摘しました。

同紙は、「相当数の韓国人がこの写真に、ジェンダー問題に対する原初的な感情を投影させた」と分析。特に韓国におけるジェンダー問題は若年層で非常に敏感な問題であり、選挙、出生率、恋人とのデートなど、様々な社会問題の中でその対立が表面化することが多いと伝えています。

分極化する若年層の思想と社会現象

NYTは、前回の大統領選挙における出口調査の結果、20代から30代では男女によって政治的性向が分かれたことを引き合いに出し、韓国社会における若年層の分極化が顕著であることを強調しました。また、過激な反フェミニズムと急進的なフェミニズムがジェンダー問題を深刻化させている現状や、恋愛、結婚、出産、性的関係を拒否する「4B運動」の賛同者が存在する実態にも言及しています。

若い男女間の考え方の違いが拡大する現象は世界的な傾向ではありますが、韓国では独特な方式で展開されているとNYTは分析。一部の専門家は韓国の少子化についても、部分的にジェンダー問題に起因するとみています。

儒教思想と現代社会の衝突

このジェンダー問題の背景には、「女性は男性に従属しなければならない」という根深い儒教思想が原因の一部にあるとNYTは指摘しています。しかし、近年、女性の社会進出が増加し、「MeToo運動」(性的暴行被害の告白・共有運動)などでフェミニズムの価値が注目されるようになったことで、このような伝統的な信念が挑戦を受けている状況を伝えました。

専門家の見解

梨花女子大学政治外交学科のコ・ミンヒ教授はNYTに対し、「写真1枚がこのような騒動を起こす可能性があるということは、それだけ若年層でジェンダー問題が非常に深刻になっているということだ」と述べました。さらに、インターネット・コミュニティー・サイトや交流サイト(SNS)がジェンダー問題に対する二極化を煽り、怒りを拡散させている現状に警鐘を鳴らしました。

結論

ソン・フンミン選手の「傘騒動」は、一見すると些細な出来事に見えるかもしれませんが、NYTの報道は、この一件が韓国社会に深く根ざしたジェンダー間の軋轢、特に若年層における価値観の大きな隔たりを象徴していることを示唆しています。インターネットとSNSが情報の拡散と世論の形成に大きな影響力を持つ現代において、このような問題がどのように変化し、社会にどのような影響を与え続けるのか、その動向が注目されます。


Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/67fe6676d96b5b1b9ca743fa3e23bad3f2b0d44b