高齢化が進む現代社会において、人々の「死」を取り巻く環境は大きく変容しています。死亡年齢の高齢化、葬儀や墓の簡素化、そして家族関係の希薄化は、社会全体の構造と意識に深い影響を与えています。特に、「家族」という概念そのものが、若い世代だけでなく多くの大人にとっても変化しつつあり、自身のきょうだいを家族として認識しない人が増えているのが現状です。長年にわたり死生学を研究してきたシニア生活文化研究所代表理事の小谷みどり氏が、新刊『〈ひとり死〉時代の死生観』(朝日新聞出版)でこの現代社会における「死」の捉え方を鮮やかに浮き彫りにしています。本記事では、同書の一部を抜粋し、その核心に迫ります。
「家族」の概念変容と現代社会の課題
現代において、「家族」という概念は大きく変容しています。特に顕著なのは、多くの大人が自身のきょうだいを家族だと認識しなくなっている点です。かつて子ども時代には当然家族だったきょうだいも、それぞれが成人し結婚すると、家族としての意識が薄れてしまう傾向が見られます。きょうだいや祖父母が家族の範囲から外れることで、家族の定義は親子(そして時にはペット)に限られるようになってきています。
しかし、多くの日本人は「困った時には家族だけが頼り」と考える一方で、「家族に迷惑をかけたくない」という複雑な意識を抱いています。少子化によって子どもの数が減少している現代では、必然的に家族の人数も減少し、親が自立した生活を送れなくなった際に、子ども一人あたりにかかる負担はますます大きくなっています。
日本の高齢化社会における夫婦と変化する家族観
介護負担の増加と高齢者の居住形態の変化
65歳以上の世帯の状況を見ると、ひとり暮らしの高齢者が増加傾向にあります。これに加え、「老親と未婚の子」という居住形態も年々増えており、2023年には全体の20%を占めるまでに至っています。この中には、結婚して家を出ていった子どもは育児などで多忙であるという理由から、老親の世話や介護の負担が、同居している未婚の子に重くのしかかるケースが相当数存在すると考えられます。
厚生労働省の「雇用動向調査」によれば、「介護・看護」を理由として離職する、いわゆる「介護離職」をする人は、2013年以降急増し、2017年には9万人を超えました。近年は減少傾向にあるものの、2022年においても7.3万人もの人々が介護を理由に仕事を辞めており、家族が抱える介護負担の甚大さが浮き彫りになっています。こうした社会構造の変化は、個々の家族だけでなく、日本社会全体にとって喫緊の課題となっています。
現代社会における「死」と「家族」のあり方の変遷は、私たちの価値観や生活様式に深く関わっています。小谷みどり氏の新刊は、この複雑な現実を理解し、来るべき「ひとり死時代」に向けて、私たちがどのように「生」と「死」を見つめ直すべきか、重要な示唆を与えてくれます。この洞察は、読者一人ひとりが自身の未来、そして家族との関係性を考える上で、かけがえのない視点を提供するでしょう。
参考文献
- 小谷みどり 著『〈ひとり死〉時代の死生観』(朝日新聞出版)
- Yahoo!ニュース (https://news.yahoo.co.jp/articles/e2aef6c35aee6debeb5c7f80187f0f5bdb23843d)