コダック、約740億円債務で「企業継続に疑義」- デジタル化と栄枯盛衰の歴史

創業133年の歴史を持つ写真メーカー、イーストマン・コダックが、約5億ドル(約740億円)に上る債務の返済に際し、「確約された融資または利用可能な流動性」がないことを発表しました。この状況は、同社の企業としての継続能力に「重大な疑義を生じさせる」と報告されており、かつて写真業界を席巻した巨人の財政状況が再び注目されています。コダックは、退職年金制度への支払いを一時停止することで、当面の現金確保を目指すとしています。

財政状況と株価の動向

コダックは現在、約5億ドルの債務返済に直面しており、そのための資金源に不安があることを明らかにしました。この財政的な不安定さは、企業の継続性に対する深刻な懸念を引き起こしています。同社は、喫緊の課題として、退職年金制度への支払いを停止することで現金を捻出する方針を示しました。一方で、カメラやインク、フィルムなど、主要製品の多くを米国国内で製造しているため、関税が事業に与える「実質的な影響」は想定していないとのことです。コダックの広報担当者は、早期に融資の大部分を返済し、残りの債務や優先株債務を修正・延長、または借り換えできると楽観的な見解を示しています。しかし、この発表を受け、コダックの株価は発表当日の正午までに25%以上下落し、市場の懸念を反映する形となりました。
コダックのフィルムやネガ、現像された白黒写真が披露された様子コダックのフィルムやネガ、現像された白黒写真が披露された様子

写真業界の巨人コダックの栄枯盛衰

イーストマン・コダックの起源は、創業者ジョージ・イーストマン氏がプレートコーティング機の特許を初めて取得した1879年に遡ります。そして1892年に正式に会社として設立され、1888年にはイーストマン氏が最初のコダックカメラを25ドルで販売しました。同社のカメラは、「あなたはシャッターを押すだけ、あとはわれわれにお任せください」という象徴的なスローガンと共に、写真を一般大衆に広く普及させる上で画期的な役割を果たしました。社名「コダック」自体は、イーストマン氏が考案した造語であり、特定の意味を持たないことで知られています。コダックは1世紀以上にわたり、カメラとフィルムの製造で圧倒的な成功を収め、エコノミスト誌によると、1970年代には米国内のフィルム販売の90%、カメラ販売の85%を占めるほどの市場支配力を誇っていました。

デジタル化の波と破産、そして新たな挑戦

しかし、コダックの市場での圧倒的地位は、皮肉にも同社自身が開発した技術によって終焉を迎えます。1975年、コダックは世界初のデジタルカメラを発明しました。それにもかかわらず、同社はデジタル技術の急速な台頭にうまく適応できず、その結果、2012年には連邦破産法第11条の適用を申請する事態となりました。この時の負債総額は67億5000万ドルにも及び、10万人もの債権者が存在しました。その後、コダックは事業の軸足を大きく転換し、2020年には医薬品原料の生産へと参入、株価が急上昇する時期もありました。最近の損失にもかかわらず、コダックは昨年、医薬品事業のさらなる拡大を目指すと発表しています。現在も、映画業界を含む企業向けにフィルムや化学薬品の製造を続けており、さらには「コダック」ブランドを冠した様々な消費者向け製品のライセンス供与も行っています。
1938年に製造されたコダック初の35ミリフィルムカメラ1938年に製造されたコダック初の35ミリフィルムカメラ

まとめ

かつて写真業界の代名詞であったコダックは、再び財政的な試練に直面しており、その企業継続能力に「重大な疑義」が投げかけられています。デジタル技術への適応に失敗し、一度は破産を経験しながらも、医薬品原料生産や既存のフィルム・化学薬品製造、ブランドライセンス供与へと事業を多角化し、再起を図ってきました。この歴史的な企業の今後の動向は、多くの人々の関心を集めることでしょう。


参考文献