近年、街中でウーバーイーツ(Uber Eats)の配達員を見かける機会は多いものの、以前のようにロゴ入りの巨大な配達用リュックを背負っている姿は減少傾向にあります。その代わりに、ロゴのないシンプルなバッグや小型のリュックを使用したり、バイクや自転車の後部にリュックを固定して運んだりする配達員が増えています。この変化の背景には、配達員の働き方やサービスへの配慮が深く関係しています。
ロゴなし・小型リュックの普及背景
まず、ロゴのないリュックや小型のリュックを使用する配達員が増えた理由には、複数のフードデリバリーサービスを兼業するケースが増えたことが挙げられます。多くのデリバリーサービスの規約では、他社のロゴが入ったリュックの使用が禁止されているため、兼業している配達員はロゴなしの汎用的なバッグを選ぶ傾向にあります。
また、都心部などの注文が多いエリアまで電車で移動して配達業務を行う配達員も少なくありません。電車内での移動を考慮すると、大きなリュックは周囲の迷惑になったり、自身も身動きが取りにくくなったりするため、小型のリュックが選ばれることがあります。
ウーバーイーツの公式ガイドラインと実際の運用
ウーバーイーツの公式ウェブサイトに掲載されている「Uber コミュニティ ガイドライン」には、配達用バッグに関する規定があります。それによると、「配達パートナーが断熱素材の配達用バッグを使用すると、Uber Eatsユーザーおよび配送受取人の満足度向上に役立ちます。ただし、法律で使用が義務付けられている地域で配達する場合を除き、必須ではありません」と明記されています。
つまり、ウーバーイーツの配達においては、リュックの使用は法的に義務付けられておらず、必須ではありません。しかし、ユーザー側からすれば、断熱性の高い専用バッグで料理が運ばれる方が安心感があります。これは、就職面接で「服装自由」と指示されても、多くの人がリクルートスーツを着用するのと同様の心理と言えるでしょう。ユーザーからの「BAD」評価を避けるためにも、多くの配達員はバッグを使用することが無難だと考えています。
なぜ「背負う」ためのリュックを背負わないのか?主な三つの理由
では、なぜ「背負うため」に作られたウーバーイーツのリュックを、多くの配達員が背負わずにバイクや自転車の後部に固定するようになったのでしょうか。これには、配達員の快適性、衛生面、そして配達品質に関わる切実な理由があります。
1. 夏場の汗と衛生面の問題
最も大きな理由の一つは、夏場の汗対策です。最低気温が30度を下回らないような猛暑日に自転車を漕いでいると、背中一面にびっしょりと汗をかきます。大きなリュックを背中に密着させると、背中からの発汗がさらに促進され、リュックの背中と接する部分に汗が染み込んでしまいます。ウーバーイーツのリュックの背中部分には衝撃吸収用のクッション材が入っており、これが汗を吸収するため、リュック全体が不衛生な状態になりやすいのです。
リュックの表面は撥水加工が施されており、絞った雑巾で拭くなどの手入れは可能ですが、丸ごと洗濯することはできません。食品を運ぶ道具であるため、安易に消臭スプレーを吹き付けることも難しく、衛生的に保つには背負わないのがベストな選択となります。
2. リュックの強度の問題:耐久性と品質保持
次に挙げられるのは、リュックの耐久性に関する問題です。ウーバーイーツのリュックの表面には撥水効果のある丈夫な生地が使用されていますが、何度も使用していると、特に肩にかかるバンド部分の生地が剥がれてきてしまいます。
この剥がれた生地の破片が、料理の出し入れの際に商品を入れた袋に付着する可能性があります。新品のリュックを購入しても、数ヶ月でバンド部分の生地が剥がれ始めるケースも少なくありません。また、これらのリュックは配達員が自己負担で購入しなければなりません。こうした耐久性の問題も、リュックを背負わない選択を後押しする要因となっています。
3. 自転車配達における姿勢と運搬の安全性
自転車で配達を行う場合、料理を安全に運ぶための姿勢も重要な考慮事項となります。商品を運ぶ際に最も理想的な姿勢は、背中をまっすぐに保つことですが、自転車を漕ぐ、特にギアなしや電動アシストなしの自転車で坂道を上る際には、前傾姿勢になりがちです。カレーやラーメンといった液体の多い料理を運んでいる際に前傾姿勢になると、中身がこぼれるリスクが大幅に高まります。
このような状況を避けるため、リュックを自転車の後部に固定することで、配達員は前傾姿勢にならずに済み、料理をこぼさずに丁寧に運ぶことができます。これは、配達員が料理の品質を保ち、顧客に完璧な状態で届けるためのプロ意識の表れと言えるでしょう。
配達員の配慮への理解を
ウーバーイーツの配達員がリュックを背負わずにバイクや自転車の後部に固定する行動は、決して正しい使い方をしていないわけではありません。むしろ、夏場の衛生的な環境を保ちたい、リュックの劣化による品質への影響を防ぎたい、そして何よりも料理をこぼさずに丁寧に運びたいという、配達員の顧客への細やかな気遣いやプロ意識の表れなのです。
もし街中でリュックを背負わずに配達する姿を見かけても、彼らの背景にある配慮を理解し、温かい目で見守っていただければ幸いです。
出典:
Yahoo!ニュース