日中関係の「表層的改善」に潜む罠:櫻井よしこ氏と垂秀夫氏が警鐘

今年、戦後80年を迎えようとする中、日本と中国の関係は新たな局面に入りつつあります。7月末には中国で旧日本軍を題材とした映画が公開され、習近平主席による大規模な「反日キャンペーン」の展開が懸念されています。ジャーナリストの櫻井よしこ氏と、前駐中国大使の垂秀夫氏は、こうした動きの背後にある中国の真意を見抜き、現在の日中関係に潜む落とし穴と日本の取るべき姿勢について、鋭い警鐘を鳴らしています。

日本で広がる「好転」の錯覚と中国の戦略的視点

多くの日本人は、最近の日中関係が改善傾向にあると認識しています。今年春には自民党の森山裕幹事長や公明党の斉藤鉄夫代表が相次いで訪中し、これに応じる形で中国は日本からの水産物輸入禁止の一部解除方針を発表。さらに大阪万博に合わせ、中国副総理の来日と共に20年以上続いていた日本産牛肉の輸入禁止解除へと動いたことは、日本側からすれば確かに「改善の兆し」と捉えられがちです。

しかし、2020年から2023年末まで北京で駐中国大使を務めた立命館大学教授の垂秀夫氏は、この見方を「表層的で浅薄」だと一刀両断します。40年近く日中外交の最前線に携わり、「中国通」として知られる垂氏は、中国人の思考様式が常に「大環境(ダァーフゥァンヂィン)」、すなわち大所高所の観点からマクロ的に戦略を立てる点にあると指摘します。

一方で日本人は、個別具体的な「ミクロ案件」の解決にこだわりがちです。この認識のずれが、中国が対米関係を考慮して日本に「エサ」をまいているに過ぎない出来事を、あたかも日中関係が「好転している」かのように錯覚させてしまう原因だと、垂氏は強調します。

中国が仕掛ける「認知戦」と日本の甘さ

櫻井よしこ氏もまた、垂氏の指摘が極めて重要であると強調します。訪中した森山幹事長が地元の畜産業界を考慮して牛肉輸入解禁を歓迎するのは理解できるとしても、同時に中国は東シナ海や台湾海峡などで大規模な軍事演習を繰り返し、日本や台湾への恫喝を続けている現実があります。さらに、日本の領空を中国軍機が頻繁に侵犯していることにも目を向けるべきです。中国側は「尖閣の空は中国の領空であり、そこに第三国の日本が侵犯したから追い返した」といった「認知戦」を激しく仕掛けているのです。

ジャーナリスト櫻井よしこ氏と前駐中国大使垂秀夫氏が日中関係について議論する様子ジャーナリスト櫻井よしこ氏と前駐中国大使垂秀夫氏が日中関係について議論する様子

このような状況下で、目の前の水産物や牛肉の輸入解禁、しかもまだ「口約束」の段階に過ぎないことに日本人全体が喜び、一喜一憂している現状は、自ら危険な「わな」にはまりにいっているようにしか見えないと櫻井氏は警鐘を鳴らします。日本は、混乱する国内政治の中で、こうした中国の巧妙な戦略に対し、いまだまったく構えができていないと危機感を表明しています。

日中関係は、見かけ上の「改善」の裏に、中国の長期的な戦略と「認知戦」が潜む複雑な局面を迎えています。櫻井よしこ氏と垂秀夫氏が警鐘を鳴らすのは、日本が個別案件に終始せず、中国の「大環境」という広範な視点と真の意図を理解することの重要性です。戦後80年を目前に控え、歴史問題の再燃や軍事圧力が強まる中、日本は国家としての明確な外交戦略と防衛体制を早急に確立し、中国の動きに対する包括的な対応能力を築くことが喫緊の課題です。

References:

  • 「日中関係の「表層的な改善」は罠である:櫻井よしこ氏と垂秀夫氏が警鐘」(週刊新潮/Yahoo!ニュース)