日本人の朝に長く寄り添ってきた連続テレビ小説、通称「朝ドラ」。1961年から64年もの歴史を持つこの国民的コンテンツは、毎朝15分、見る人の心を揺さぶり、朝食のような活力を与えてくれます。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、10年以上にわたりレビューを続けてきた筆者が、日々の放送の感想や情報を深掘り。「見なくてもわかる、読んだらもっと見たくなる」をコンセプトにお届けする本連載では、本日2025年8月15日放送の第100回「あんぱん」を詳細にレビューします。
ミュージカル打ち上げで見せた六原の変化と嵩への評価
ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』の打ち上げ会場で、六原(藤堂日向)は以前とは別人のように穏やかな表情を見せていました。彼は主役を務めた嵩(北村匠海)に対し、「人を描ける作家です。僕にはわかりますよ」と、その才能を高く評価します。舞台美術を担当しながらも、人間の本質を見抜く六原の洞察力は、さすが天才と呼ぶにふさわしいものでした。
のぶの疑問:嵩はなぜ漫画を描き続けないのか?
六原からの称賛にもかかわらず、嵩は喜びを隠せない様子でした。そんな嵩に対し、のぶ(今田美桜)は率直に「舞台終わったのに漫画描かんが?」と疑問を投げかけます。確かに、舞台の仕事から多大な刺激を受けたはずの嵩が、漫画制作に打ち込む姿が見られないのは不思議な点です。
NHK連続テレビ小説『あんぱん』第100回より、登場人物が並んで撮影された場面
やなせたかしの史実とドラマ『あんぱん』の相違点
ここで、モデルであるやなせたかし氏の史実を振り返ってみましょう。史実のやなせたかし氏は、寸暇を惜しんで漫画の投稿を繰り返し、漫画家として世間に認められようと奮闘していました。しかし、漫画家としてはなかなか芽が出ずとも、商業絵画や広告デザインの分野では評価されており、決して才能がないわけではありませんでした。彼が舞台美術の仕事もこなしていたという点も、史実として残っています。ドラマ『あんぱん』の嵩が、史実のやなせたかしとは異なり、漫画の投稿に熱心な描写が少ないのは、注目すべき相違点と言えるでしょう。
従来の朝ドラにおける漫画家描写との比較
これまでの朝ドラでは、漫画家や漫画家志望の人物を描く際、その人物がひたすら机にかじりつき、漫画制作に打ち込む姿が定番の描写でした。例えば、『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)に登場した水木しげる氏をモデルにした人物や、『ひよっこ』(2017年度前期)の漫画家志望のアパートの住人なども、まさにそうでした。それらの作品と比較すると、『あんぱん』における嵩の漫画活動の描写は、従来の朝ドラの「定番」とは一線を画していると言えます。
結論
今回の第100回放送では、六原による嵩への評価、そしてのぶが指摘した「漫画を描かない不思議さ」が浮き彫りになりました。特に、史実のやなせたかしが漫画家として認められるために奮闘した姿と、ドラマにおける嵩の描写との間に見られる乖離は、視聴者にとって大きな疑問符となるでしょう。この描写の意図が何なのか、そしてそれが今後のドラマの展開にどう影響していくのか、引き続き注目していきたいところです。
参考文献