近年、「人生100年時代」という言葉が浸透する中で、熟年期の再婚が増加しています。しかし、それに伴い新たな問題として浮上しているのが「相続トラブル」です。長年かけて築き上げてきた実家や金融資産が、死別後に再婚したパートナーによってその半分を相続され、残された子どもたちとの間で争いになるケースが多発しています。本記事では、この熟年再婚における相続問題の背景を探るとともに、実際に熟年再婚を果たした女性の体験談を通して、現代におけるパートナー探しの現実と課題を深く掘り下げます。
熟年再婚で「相続トラブル」が頻発する背景
熟年再婚が増える一方で、相続を巡るトラブルもまた増加傾向にあります。朝日新聞取材班の指摘によれば、「実家や金融資産は何十年もかけて築き上げた財産だが、死別などで残された親が再婚すると、数年一緒に暮らしただけの再婚相手がその半分を相続して争いになるケースが多い」とされています。これは、民法で配偶者に手厚い相続権が認められているためであり、再婚相手が子どもの有無にかかわらず法定相続人となり、故人の財産の2分の1を相続する権利を持つことが主な原因です。残された子どもたちにとっては、見ず知らずの人物が親の築き上げた財産を相続することになり、感情的な対立を生みやすい構造となっています。この問題は、事前に遺言書を作成するなどの対策を講じていない場合に顕著に現れます。
熟年再婚夫婦のイメージ画像、相続問題と新たな人生
58歳で離婚、マッチングアプリで見つけた「人生のパートナー」
相続トラブルのリスクを抱えながらも、人生の新たなパートナーを求める熟年世代は少なくありません。埼玉県の68歳の女性は、約3年前に交際していた7歳下の男性に「将来、あなたの隣にいるのは誰かな?」と問いかけ、意を決してプロポーズしました。男性は照れくさそうに女性を指さし、二人はともにバツイチという共通点がありました。二人の出会いは、現代のパートナー探しで主流となりつつあるマッチングアプリでした。
この女性の最初の結婚は23歳の時。元夫の性格(ケチで見えっぱり)に嫌気がさし、38歳で別居を開始しました。二人の子どもの結婚を見届けた後、58歳で正式に離婚。パートで週5日働き、経済的な困窮はありませんでしたが、還暦を前に独り身の寂しさが募っていきました。そんな時、友人から「運命の相手を世界中から探さないでどうするの?」とマッチングアプリを勧められ、半信半疑で「マッチドットコム」に登録したところ、毎日10人ほどの男性からメッセージが届くことに驚いたといいます。
遺産分割調停の件数増加を示すグラフ、熟年再婚における相続トラブルの現実
マッチングアプリ活用のリアルな体験談:成功と落とし穴
女性は当初「恋活」のつもりでアプリを利用していました。一時期は15歳年下の男性と真剣に交際しましたが、同居は無理だと言われ、気持ちが離れてしまいました。求めているのは、残りの人生を共に過ごす「パートナー」であることに気づいた彼女は、複数のアプリの条件欄に「婚活」「初婚NG」「子なし希望」と明確に記載し、出会いを重ねることにしました。
マッチングアプリでの出会いは、成功体験だけでなく、多くの「ワナ」も潜んでいます。「体が目当ての人はすぐに会おうとする」「夜や土日のメッセージに返事がない人は既婚者の可能性が高い」といった経験から、相手を見極める目を養いました。また、「身長を高めに偽ったり、別人の顔写真を使用したり」といった虚偽の情報にも直面し、アプリ上でのやり取りには注意が必要であることを痛感したそうです。
「ありのままの自分」でいられる相手との再婚
数々の出会いを経て、女性が四人目の交際相手として選んだのが現在の夫でした。彼は特別イケメンでもなく、経済力も高いとは言えないかもしれません。しかし、最初のデートで6時間も話し続けるほど「居心地が良かった」と言います。彼女がパートナー選びの最終的な基準としたのは、「ありのままの自分でいられる相手」であることでした。
約2年弱の交際を経て、女性は66歳で婚姻届を提出し、再婚を果たしました。気持ちは若くても、自分も夫もまもなく高齢期に入ることを自覚しています。「お互い健康でいられるように」「選んでくれてありがとう」。そんな感謝の気持ちを込めて、左手の結婚指輪をそっと撫でる姿は、熟年再婚がもたらす新たな人生の充実感を物語っています。
まとめ
熟年再婚は、現代社会において個人の幸福追求の新たな形として注目されています。しかし、その一方で、特に相続に関する問題は避けて通れない現実であり、事前準備の重要性が浮き彫りになります。遺言書の作成や生前贈与など、専門家への相談を通じて法的な対策を講じることが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。また、マッチングアプリのような現代的なツールを活用したパートナー探しは、多くの熟年世代にとって新たな出会いの機会を提供しています。本記事で紹介した女性の体験談は、アプリの活用におけるリアルな課題と、最終的に「ありのままの自分」を受け入れてくれる相手を見つけることの重要性を示しています。人生100年時代を豊かに生きるために、熟年期の再婚は単なる個人の選択に留まらず、社会全体で向き合うべき多角的な側面を持つと言えるでしょう。
参考文献
- 朝日新聞取材班『ルポ 熟年離婚 「人生100年時代」の正念場』朝日新書