高市首相の台湾有事発言で日中関係緊迫化:G20サミット後の動向と今後の展望

高市早苗首相による台湾有事に関連する「存立危機事態」発言が、日中関係に新たな緊張をもたらしています。自民党内からも驚きの声が上がる中、中国政府は自国民への日本への渡航自粛要請や、日本産水産物の輸入停止措置に踏み切るなど、具体的な対抗措置を取りました。G20サミットを終え、高市首相は日中関係の「大きな方向性に変わりはない」と強調する一方で、中国側との具体的な対話の機会はなかったと説明しており、両国間の先行きは不透明な状況が続いています。

高市早苗首相(時事通信フォト)高市早苗首相(時事通信フォト)

「存立危機事態」発言の背景と影響

高市首相は11月21日、南アフリカで開催されたG20サミットへの出発を前に、日中関係について「(戦略的互恵関係の推進など)大きな方向性に一切変わりはない」と述べました。また、日中関係悪化の火種となった自身の発言については、「いかなる事態が(存立危機事態に)該当するかは、実際に発生した事態の個別具体的な状況に即し、総合的に判断する。政府の立場は一貫している」と従来の政府見解を繰り返すに留まりました。

しかし、G20サミットでは中国の李強首相との接触の有無が注目されましたが、高市首相は記者団に対し「会話をする機会はなかった」と説明しました。「わが国としては中国とのさまざまな対話についてオープンだ」と火消しに努めたものの、中国側が日本から打診した日中韓首脳会談を拒否したことも明らかになり、関係改善への道筋は見えていません。

国会での発言経緯

事の発端は11月7日の衆院予算委員会での質疑応答でした。立憲民主党の岡田克也元幹事長が、台湾有事と日本の「存立危機事態」の関連性について繰り返し質問しました。高市首相は当初、従来の政府見解でかわしていましたが、最終的に、中国が台湾を戦艦などを用いて海上封鎖し、武力行使を伴う場合は「存立危機事態になり得る」と明確に答弁しました。

政治部記者の見方によれば、この発言は高市首相が周到に準備した上でのものではなく、岡田氏の追及に乗せられる形で「言ってしまった」感が強いとされています。

政治的文脈と国民の反応

「台湾有事=存立危機事態」という認識は、高市首相が初めて示したものではなく、これまでに安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁も言及してきました。しかし、安倍氏や麻生氏が政府の立場を離れてから発言する「老獪さ」があったのに対し、高市首相は現職の首相として国会で答弁した点で、その重みが異なると指摘されています。

一方で、政権の支持率は依然として高く、「高市けしからん」といった批判の声はあまり聞かれません。むしろ、「品のないことばかりする中国に毅然と対応すれば支持率はもっと上がる」と見る向きすらあり、高市首相の強硬な姿勢を支持する世論も一定数存在することが伺えます。

結論

高市首相の台湾有事に関する「存立危機事態」発言は、日中関係に深刻な緊張をもたらし、その余波はG20サミット後も続いています。首相は関係改善への意欲を示すものの、中国側の対応は硬化しており、具体的な対話の再開には至っていません。国内では首相の発言への賛否が分かれる中、今後の日中関係の動向は、地域の安定と日本の外交にとって極めて重要な課題となるでしょう。

参考文献