自民党SNS戦略の課題:参院選大敗後、なぜ支持拡大に苦戦するのか

7月の参議院選挙で大敗を喫した自民党は、社会的なデジタル空間、特にSNSでの発信力強化を急務と捉え、その方策を検討しています。かつてネット戦略の先駆者であった自民党が、現在なぜそのメッセージや政策をソーシャルメディア上で十分に浸透させられないのか。本記事では、新興政党の躍進と比較しつつ、自民党のSNS戦略における現状の課題とその背景にあるネット世論の変化を、専門家の見解を交えて深掘りします。

自民党の過去と現在のSNS状況:先行者からなぜ伸び悩むのか

自民党は、日本の主要政党の中でも早期からインターネットを活用した広報活動に力を入れてきました。例えば、小池百合子氏が広報本部長を務めていた2013年には、ネット上での選挙活動推進を目的とした特別チーム「Truth Team(T2)」を発足。このチームは、自民党や候補者へのネット上の書き込みを分析・監視し、その情報を情報発信に活用するだけでなく、誹謗中傷に対して迅速な法的措置や削除要請を行える体制を構築していました。

しかし、現在の自民党は、YouTubeを筆頭に登録者数やフォロワー数の伸び悩みに直面しており、各党がSNS戦略を重視する中で、流れに乗り遅れている感が否めません。具体的には、自民党のYouTubeチャンネル登録者数は14.1万人にとどまっており、参政党(51.2万人)、れいわ新選組(39.8万人)、国民民主党(28.4万人)といった新興・野党に大きく差をつけられています。これは、かつてネット活用のトップランナーであった自民党にとって、大きな転換点を示唆しています。

石破茂氏が両院議員総会で挨拶する様子。自民党のSNS戦略課題を議論する背景を示す一枚。石破茂氏が両院議員総会で挨拶する様子。自民党のSNS戦略課題を議論する背景を示す一枚。

専門家が指摘する「風景の変化」:安倍政権下と現在の相違点

国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は、この自民党のSNSにおける停滞について、「第2次安倍晋三政権下では、自民党はネット上で比較的高い若年層の支持を集めていたが、当時と今とではネット空間の『風景が一変している』」と指摘します。

安倍政権下では、安倍元首相の人気に加え、ネット上では2012年まで政権を担った旧民主党への批判が非常に強く、相対的に自民党へ好意的な意見が多数を占めていました。しかし現在では、国民の生活苦や将来への不安が高まる中、与党である自民党に対して責任を問う空気感がネット上に形成されています。山口准教授は、現代のネット空間で働く「アテンション・エコノミー」(注目を集めることが経済的利益につながる原理)がこの現象を加速させていると分析します。「自民党を批判すれば、閲覧数が稼げる」という認識が広まることで、批判の声が一斉に増幅され、特定の意見がネット世論を形成しやすい構造となっているのです。

まとめ

自民党が直面しているSNS戦略の課題は、単なる技術的な問題ではなく、ネット世論全体の変化、特に国民の生活に対する不安や期待が与党批判へと向かっている現状を反映しています。かつての成功体験に固執せず、変化したネットの「風景」とアテンション・エコノミーの原理を理解し、現在の国民感情に寄り添う新たなデジタル広報戦略を構築することが、自民党が再びSNS上で支持を拡大し、政策メッセージを浸透させるための鍵となるでしょう。


参考文献