警察権力の暴走か?令状なき侵入と97歳女性「連れ去り」の謎

警察官の職務は、地域住民の安全を守り、社会秩序を維持することに尽きる。その職務遂行においては、法に定められた手続きを厳守し、その範囲を超えた活動は許されない。これは法治国家における基本的な原則である。例えば、個人の住居に立ち入って捜査を行う場合、憲法35条に定められる「令状主義」に基づき、原則として裁判所が発付する「捜索差押許可状」が不可欠となる。これは、捜査機関による強制処分が逸脱しないよう、事前に裁判官の審査を受けさせるための重要な仕組みだ。

しかし、今年3月、東京都江東区でこの法の枠組みを警察自らが崩壊させるかのような重大事件が発生した。警察官が裁判所の許可なく住宅の鍵を破壊して侵入し、その場にいた97歳の女性を連れ去ったのである。連れ去られたこの女性は、いかなる犯罪にも関与していなかった。女性は現在も行方不明のままだという。なぜこのような警察権力の暴走が起きたのか。にわかには信じ難いこの警察による人権侵害事件の謎を追う。

裁判所の許可なく住宅に侵入し、97歳女性を「連れ去った」警察官の行為裁判所の許可なく住宅に侵入し、97歳女性を「連れ去った」警察官の行為

令状なき強制捜査の衝撃

「今年はみんなで花見に行きたいね」。東京都江東区内の都営アパートに住む97歳の中村文子さん(仮名)は、今年に入ってから家族にそんな希望を話していたという。しかし、3月に入っても気温は上がらず、人々が今年の桜の開花は遅くなりそうだと感じ始めたころ、突如としてその平穏な日常は破られた。

3月13日、文子さんが暮らす築50年以上の都営アパートの玄関前に、黒い服を着た男女が複数人現れた。400戸以上を抱える鉄骨鉄筋コンクリート造のこのアパートは、昼間でも廊下が薄暗く、そこに多くの人が集まったことで、周囲はものものしい雰囲気に包まれた。近隣住民は、「廊下にいた人たちは警察官を名乗っていました。文子さんの自宅内の様子を知りたかったようです」と証言する。文子さんは97歳ながら大きな病気をしたことがなく、身の回りのことはほとんど一人でこなしていた。長年住み慣れたこのアパートで多くの知人と交流し、「助けてくれる人がいるし、家賃も安いからとてもいいの」と話すなど、自立した生活を送っていた。人との交流を大切にし、多くの友人に慕われる彼女が、なぜこれほど大勢の警察官にマークされることになったのか。

この時、自宅にいた文子さんの娘、後藤真由美さん(仮名)は当時の状況を語る。「この日の午前、江東区役所から母の安否を尋ねる電話があり、『元気にしています』と答えました。しかし午後1時頃になって、黒い服の人たちがやってきて、玄関のチャイムを鳴らし、鍵を開けるように言われました。何が起きているのか理解できず、『本当に警察官なの?犯罪者のグループじゃないの?』と信じられませんでした。母も『玄関の鍵を開けないで』と強く言うので、私たちは『元気です』とだけ伝え、鍵を開けないようにしていました」。

警官が多数集結した、東京都江東区の都営アパート。中村文子さんが長年暮らしていた自宅。警官が多数集結した、東京都江東区の都営アパート。中村文子さんが長年暮らしていた自宅。

自宅には真由美さんの娘、後藤直子さん(仮名)もいた。3人の女性は、何を言っても侵入を試みようとする警察官たちの威圧的な態度に恐怖を感じたという。直子さんはその時の様子をこう証言する。「もう逃げられないと思ったのか、おばあちゃん(文子さん)が私に『あの人たちの顔を撮って』と言いました。何かあった時に証拠となるものを残しておきたかったのだと思います。それで私は、玄関の覗き窓から廊下の様子をスマートフォンで撮影することにしました」。しかし、警察は最終的に鍵を破壊して強行突入し、中村文子さんを連れ去ったのである。

失われた信頼と残された疑問

連れ去られた中村文子さんは、いかなる犯罪にも関与していなかったにもかかわらず、現在も行方不明のままだ。法で守られるべき市民の住居の自由、プライバシー、そして人身の自由が、裁判所の令状なしに、警察権力によって侵害された今回の事件は、日本の法治国家としての根幹を揺るがしかねない重大な問題提起である。

この事件は、警察の職務遂行における透明性と説明責任の欠如を浮き彫りにした。なぜ令状主義が軽視され、一市民に対してこのような強制的な措置が取られたのか、そして連れ去られた女性の安否はどうか。これらの疑問に対し、警察当局は明確な回答と説明責任を果たす義務がある。捜査機関に対する国民の信頼は、法と適正な手続きへの厳格な順守によってのみ維持される。今回の事件は、その信頼を深く傷つけるものであり、再発防止に向けた徹底的な検証と制度の見直しが急務である。

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