かつて「半導体王国」と呼ばれたインテルが、米国政府所有の「国有企業」となる可能性が浮上し、半導体業界全体に衝撃が走っています。ドナルド・トランプ前大統領の政権が、米国内の半導体産業を復活させるため、政府自らが筆頭株主となって民間企業を積極的に後押しするという、前例のない市場介入に乗り出しているためです。この米国の自国企業育成策が、韓国企業などに不利益をもたらすとの懸念も高まっています。
米国政府によるインテル株式取得の動き
ブルームバーグ通信は3月19日(現地時間)、トランプ政権がインテルの株式約10%を政府自ら買収する案を議論中であると報じました。インテルは、前任のバイデン政権時に施行された「半導体法(CHIPS Act)」に基づき、政府補助金109億ドルの支援を受ける予定です。この補助金全額を株式に転換した場合、米国政府がインテルの持分10%を保有する単一筆頭株主となり得るというシナリオです。現在、インテルの筆頭株主はブラックロック(8.92%)、ヴァンガードグループ(8.82%)といった大手資産運用会社が占めています。
半導体サプライチェーン強化への狙い
トランプ政権がインテル株の買収を検討する背景には、米国内における半導体製造・生産サプライチェーンの抜本的な強化という明確な意図があるとみられます。現在の世界の半導体サプライチェーンは、米国企業が半導体設計を担い、韓国や台湾の企業が製造を専門とする分業構造が定着しています。サムスン電子や台湾のTSMCなどが米国に新たな半導体工場を建設している最中ですが、米国政府が公的資金を投じて在来企業であるインテルのファウンドリ(半導体受託生産)事業を露骨に後押ししようとする動きは、この分業体制を米国優位へと変革しようとする強い意志の表れと言えるでしょう。
ソフトバンクグループの大型投資
同日、日本のソフトバンクグループも、インテルの株式を1株当たり23ドルで買い入れる契約をインテル側と締結し、20億ドルの投資を明らかにしました。株式取得後の持分率は2%をやや下回る見通しです。ソフトバンクグループの孫正義会長は、今回の投資について「インテルが重要な役割を担う先進半導体の製造と供給が、米国内でさらに発展することを期待する」と述べました。今年1月に5000億ドル規模の対米AIインフラ投資計画を発表していた孫会長が、再びトランプ政権の政策を支援する形となりました。
インテルロゴの前で発言する関係者、米国半導体政策の転換点
前例なき政府の「市場直接介入」の拡大
米国政府がこのように私企業の大株主となってまで特定産業に直接介入する動きは、過去には見られなかった異例の事態です。金融危機当時、破産危機に追い込まれたゼネラルモーターズ(GM)に大規模な公的資金を投入し、一時的に筆頭株主となったことはありますが、インテルへの今回の介入は、危機救済とは異なる産業育成を目的としており、その性質が大きく異なります。
トランプ政権の市場介入と統制措置はこれだけに留まりません。米国防総省は先月、戦略鉱物である希土類(レアアース)鉱山の保有企業であるMPマテリアルズの優先株(15%)の買収契約を結び、筆頭株主に浮上しました。さらに、日本製鉄によるUSスチール買収計画にも関与し、米政府が主要経営事案に拒否権を行使できる「黄金株」を保有することで合意しました。NVIDIAをはじめとする米国企業が中国に輸出する低仕様AIチップの売上額の15%を政府が受け取るという異例の取り決めも行われるなど、その介入範囲は多岐にわたっています。
専門家の分析と今後の課題
産業研究院のクォン・ナムフン院長は、「半導体市場は世界最高の企業だけが生き残る激しい競争を繰り広げている状況であり、政府が自ら救援投手として乗り出してもうまくいくかは疑問である」としながらも、「米国は半導体産業を自国内に誘致するという意志が確固としているだけに、韓国企業が反射的な影響で厳しい状況に直面するかもしれない」と指摘しました。また、半導体業界関係者は「政府の支援も重要だが、結局は技術力に裏付けられなければならない問題だ」とし、「今後の動向を慎重に見守る必要がある」と語っています。
今回の米国政府によるインテルへの介入検討は、トランプ政権が経済安全保障と産業競争力の強化を最優先課題としていることを明確に示しています。これは単なる補助金政策に留まらず、政府と民間企業のあり方を根本から変える可能性を秘めています。この動きが米国の半導体産業の未来をどう形作り、さらに世界の半導体サプライチェーンや国際的な経済競争にどのような影響を及ぼすのか、今後の展開が注目されます。
参考文献: