20日夜、カンボジアで特殊詐欺に関与したとして逮捕された日本人29人が、厳戒態勢の中、中部国際空港に移送されました。これは海外を拠点とする特殊詐欺グループの摘発に伴う一度の移送としては過去最大規模であり、現地での日本人「かけ子」が高値で取引されるという衝撃的な実態が明らかになっています。彼らは10代から50代の男女で、警察官を装う手口の詐欺に加担していたとみられ、同日、詐欺未遂の疑いで全員逮捕されました。
カンボジアの特殊詐欺拠点で拘束され、中部国際空港に移送された日本人容疑者たち
ポイペトに潜む詐欺拠点と厳重な内部状況
今回の特殊詐欺グループの拠点は、カンボジア北西部のタイ国境に近い街、ポイペトにありました。首都プノンペンや世界遺産アンコールワットで有名なシェムリアップよりも西に位置し、その治安の悪さが指摘されています。拘束された29人がいた詐欺拠点には、外部からの侵入や脱走を防ぐかのように、窓には鉄格子がはめられ、複数の防犯カメラが設置されているなど、その厳重な管理体制が窺えます。
カンボジア北西部ポイペトに位置する、特殊詐欺拠点とみられる施設群の空撮。厳重なフェンスや工事現場も確認できる
上空からの映像では、広大な敷地内に集合住宅が立ち並び、洗濯物や複数の車、人の姿が確認できますが、その一部は大きなフェンスで囲われていました。また、足場が組まれ工事をする作業員がいる建物や、周囲にがれきが散乱する場所もあり、その全容は謎に包まれています。この詐欺拠点特定のきっかけは、日本の愛知県警に寄せられた情報提供でした。
組織的な管理と外界との隔絶
自身もこの特殊詐欺に加担していたという男性の証言からは、その組織的な管理体制が浮き彫りになります。男性によると、約8人の中国人が20人以上の日本人を管理下に置き、「かけ子」として詐欺行為に従事させていたといいます。驚くべきは、男性が拠点に入ってから日本に帰国するまで、一度も外に出ることを許されなかったという事実です。
カンボジアの特殊詐欺拠点内部で、外部の連絡役と通話する日本人男性。拠点での生活環境の厳しさが窺える
カンボジアの特殊詐欺拠点の内部で撮影された映像には、そこで働いていた日本人男性が連絡役と電話でやり取りする様子が記録されていました。男性が「食べ物、お菓子。(ここら辺)売っているものがわからないから。食べ物と飲み物を買いに行きたいんです。俺1人で行っていいかわからないのでちょっと聞いてみて。お願いします」と外部に食料の調達を依頼する様子は、彼らが外界から隔絶された環境に置かれていたことを強く示唆しています。
深刻化する海外拠点型特殊詐欺への警鐘
今回のカンボジアからの日本人29人移送は、海外に拠点を置く特殊詐欺グループの活動が依然として活発であり、その規模が拡大している現状を如実に物語っています。若年層を含む日本人が高額報酬を謳う誘い文句に乗り、海外で詐欺行為に加担させられ、厳しい管理下に置かれるケースが多発していることを改めて示唆するものです。国際的な捜査協力の強化と、安易な高額報酬の誘いに対する国民の警戒心向上が、今後の被害拡大阻止には不可欠と言えるでしょう。