映画「国宝」興収105億円達成、実写邦画歴代3位の快挙と歌舞伎界の歓迎

歌舞伎の世界に生きる若者の人生を描いた話題の映画「国宝」が、興行収入100億円の大台を突破し、公開73日目で105億円に達したと配給元の東宝が発表しました。この数字は、実写の邦画としては2003年公開の「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(173億5000万円)、1983年公開の「南極物語」(110億円)に次ぐ歴代3位という驚異的な記録です。これら上位3作品はすべて東宝が配給を手掛けており、同社の邦画における強さが改めて示されました。

映画「国宝」で主人公・立花喜久雄を演じる俳優の吉沢亮。歌舞伎の美しさと厳しさを表現するその姿映画「国宝」で主人公・立花喜久雄を演じる俳優の吉沢亮。歌舞伎の美しさと厳しさを表現するその姿

邦画興収記録を塗り替える「国宝」の偉業

実写邦画で興収100億円を突破した作品は、今回の「国宝」を含めて計4本しか存在しません。歴代4位には、1997年公開の「踊る大捜査線 THE MOVIE」(101億円)が名を連ねており、「踊る大捜査線」シリーズの根強い人気も特筆すべき点です。これらの大ヒット作がいずれも東宝配給であることは、日本の映画業界における東宝の圧倒的な影響力と、ヒット作を生み出す企画力・宣伝力の高さを物語っています。

「歌舞伎の松竹」が関わらなかった背景

「歌舞伎といえば松竹」という言葉があるほど、松竹は歌舞伎界の中心的存在です。歌舞伎座をはじめとする主要な劇場での歌舞伎公演を手掛け、多くの歌舞伎俳優と専属契約を結び、「歌舞伎」「歌舞伎座」といった商標も保有しています。それにもかかわらず、歌舞伎を題材とした大ヒット映画「国宝」に松竹が関与していないことに対し、業界関係者からは疑問の声が上がっています。

映画「国宝」は吉田修一氏の同名小説が原作で、任侠の世界に生まれながら歌舞伎役者の家に引き取られ、歌舞伎に人生を捧げる主人公・立花喜久雄を吉沢亮(31)が熱演。喜久雄を引き取る上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎を渡辺謙(65)、その息子で将来を嘱望される御曹司・大垣俊介(花井半弥)を横浜流星(28)が演じています。

当初は松竹が配給に加わる可能性も検討されたものの、最終的に製作側が選んだのは東宝でした。業界関係者によると、松竹側からすれば「みすみす大魚を逃した」という状況であり、その悔しさは相当なものと見られています。

歌舞伎俳優たちの意外な歓迎ムード

松竹の不参加とは裏腹に、歌舞伎俳優たちは映画「国宝」のヒットを心から歓迎しているようです。映画を鑑賞した市川團十郎白猿(47)は自身のX(旧Twitter)で、「監督はじめ/関係者全ての方々に賞賛。/是非ご覧ください。/歌舞伎役者として思いました。/この作品を麗禾と勸玄に薦めました。」(6月11日付)と、絶賛のコメントを投稿しました。

また、人間国宝である片岡仁左衛門(81)を父に持つ片岡孝太郎(57)は自身のブログで、「うちに国宝おりますが、/歌舞伎の人間国宝とはその人物が/歌舞伎を演じている時が国宝になります。/普段は人間国宝でなく、普通の人なんです。/歌舞伎座の楽屋では映画『国宝』の話題でいっぱいです。/コレから観る人もいれば観て感動してもう一度観ると言っている人もあるくらい盛り上がっています。」(6月11日付)と綴り、歌舞伎界全体で映画の話題が持ちきりであることを明かしました。

さらに、松本幸四郎(52)も6月18日に行われた新作歌舞伎「鬼平犯科帳 血闘」の取材会見で、「時代劇や歌舞伎を取り上げていただいて、うれしく思います。映画で歌舞伎に興味を持った方々のアンテナに引っかかってもらえたら、うれしいこと。そういう時にやる新作歌舞伎だからこそ、大事にしっかりと作って、お見せする。その気持ちを大事にしようと思います」と述べ、映画が歌舞伎への新たな関心を呼び起こすことに期待を示しました。

映画「国宝」の興行的な大成功は、日本の実写邦画の歴史に新たなページを刻むとともに、歌舞伎という伝統芸能が現代のエンターテインメントとしていかに魅力的であるかを改めて証明しました。松竹が関わらなかったという背景がある一方で、歌舞伎俳優たちが作品の持つ力を認め、その影響に期待を寄せている事実は、この映画が持つ真の価値と可能性を浮き彫りにしています。

参考文献