国家戦略特別区域法に基づく「特区民泊」は、一軒家やマンションの居室を宿泊用に年間を通じて営業できる制度です。本年6月末時点で全国8自治体で計6899件が認定を受けていますが、その約95%が大阪市に集中しているという特異な状況が報告されています。この集中により、利用者と地域住民間での騒音やごみ出しなどのトラブル、さらには民泊物件を投資対象とする外国人による不動産取得といった課題も大阪市内で顕在化しています。一体なぜ、大阪にこれほどまでに特区民泊施設が集まるのでしょうか。
参入障壁の低さと高まる収益性
大阪で民泊関連事業を営む関係者は、「特区民泊は圧倒的に参入ハードルが低い」と強調します。賃貸物件と比較して収益性が高く、旅館やホテルといった一般的な宿泊業よりも手軽に始められる点が魅力とされています。大阪は、大阪城や道頓堀といった人気の観光地を擁し、関西国際空港や外国人観光客に人気の京都へのアクセスも良好です。令和6年には大阪府を訪れた訪日客が1459万1千人に達し、これは訪日客全体の約4割を占めるという高い宿泊需要を誇ります。この高い需要が、投資目的での住居所有において、賃貸よりも高い利益が期待できる民泊を選択肢として浮かび上がらせています。さらに、宿泊予約システムやベッドメイキング、清掃作業などは代行業者に委託できるため、民泊運営が比較的容易であることも普及の背景にあります。「もし民泊がうまくいかなくても、賃貸に切り替えれば良い」という柔軟な運用が可能であるため、収益を上げやすい仕組みが確立されており、これが海外からの注目を集め、外国人による不動産取得の素地にもなっています。
大阪・心斎橋周辺の賑わいと特区民泊の現状を示す景観
先行する規制緩和と「通年営業」の優位性
特区民泊が特定の地域に限定される制度であるという点も、大阪への集中を促す大きな要因です。この制度は、国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例として平成25年12月に制定されました。特区指定を受け、都道府県や保健所設置市・区が地域の事情に合わせて導入を決定しますが、実施エリアを区域計画で定める必要があります。現在、実施している自治体は大阪市を含め全国で8つのみであり、大阪市がいち早く規制緩和を進めた地域であることがわかります。全国に適用される住宅宿泊事業法(民泊新法)が平成30年6月に施行され、民泊営業の上限が年間180日に定められたのに対し、特区民泊は2泊3日以上の滞在が条件となるものの、通年営業が可能である点が決定的な優位性となっています。この通年営業が可能であるという点が、事業者にとって大きな魅力となり、大阪への特区民泊施設の集中を加速させています。
結論
大阪に特区民泊が突出して集中している背景には、観光地としての高い魅力とそれに伴う宿泊需要、民泊運営の参入障壁の低さ、そして法的な規制緩和の先行と「通年営業」という制度上の優位性があります。これらの経済的・法的要因が複合的に作用し、大阪は民泊投資にとって非常に魅力的な市場となりました。しかし、その一方で、地域住民との共存や不動産市場への影響といった、新たな社会課題も生まれています。特区民泊の持続可能な発展のためには、これらの課題への継続的な対応が求められるでしょう。
参考文献
- Yahoo!ニュース (記事元: SANKEI.COM)