日本の航空大手、お盆の好調裏に国内線「実質赤字」の現実と構造的課題

お盆期間中の搭乗実績が好調だったにもかかわらず、日本の主要航空会社である日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)の国内線事業は、政府の支援なしには「実質赤字」という厳しい状況に直面しています。一時的な繁忙期の数字だけでは見えにくい、深刻な構造的課題が背景に潜んでいることが、決算資料や関係者への取材から浮き彫りになっています。

決算資料が示す日本の航空業界国内線の苦境

JAL、ANA、スカイマークの航空3社が発表したお盆期間(8月8日〜17日)の搭乗実績では、いずれも利用者数が前年を超え、特にJALとANAは国内線・国際線ともに好調な数字を記録しました。しかし、短期的な好況とは裏腹に、事業単位や通年で見た国内線は苦しい状況です。

JAL・ANAの2026年3月期第1四半期決算では、JALの国内線旅客収入が1342億円(前年同期比7.6%増)、ANAの国内線売上高が1619億円(同6.8%増)と表面上は増加しています。しかし、その実情は厳しく、主な要因として人口減少やビジネス需要の低迷が挙げられます。さらに、賃上げに伴う人件費の増加や、円安による燃料費の高騰が続き、国内線経営を圧迫しています。

対照的に、国際線はインバウンド需要の回復を背景に好調を維持しています。JALの国際線旅客収入は1849億円(前年同期比11.4%増)、ANAの国際線収入は2062億円(同8.8%増)を記録し、客単価の違いはあるものの、売上高だけ見れば国内線を上回る結果となっています。この国際線と国内線の対照的な状況は、航空会社の経営戦略に大きな影響を与えています。

JALとANAの旅客機。日本の主要航空会社が国内線事業で直面する構造的課題と政府支援の必要性を示唆するJALとANAの旅客機。日本の主要航空会社が国内線事業で直面する構造的課題と政府支援の必要性を示唆する

国内線「政府支援なくして実質赤字」の実態

航空業界関係者の発言や決算資料からは、国内線が「政府の支援がなければ実質赤字」という衝撃的な実態が明らかになっています。現在、政府は空港使用料の減免や航空機燃料税の軽減といった支援策を通じて、苦境に陥る国内線を支えています。

国土交通省は、国内線の安定的な事業継続が困難になりつつあると判断し、現状を検証するため「国内航空のあり方に関する有識者会議」を開催しています。JAL・ANAの広報担当者への取材を総合すると、お盆期間のような繁忙期に利用者数や搭乗率が一時的に上昇したとしても、それだけで赤字が解消されるような単純な問題ではなく、複合的な構造的課題が絡み合っていると指摘しています。

この「実質赤字」の背景には、主に以下の3つの要因が複合的に影響していることが見えてきます。

  1. ビジネス需要の低迷: テレワークの普及や企業活動の変化により、出張などのビジネス利用がコロナ禍以前の水準まで回復していません。
  2. インバウンドの取り込み不足: 国際線ではインバウンド需要が活発ですが、その恩恵が国内線の地方路線まで十分に波及しておらず、観光客が利用する主要都市間の移動に限定されがちです。
  3. 「新幹線」との競合: 主要都市間では新幹線が高速性、定時性、利便性において強力な競合となり、特に中距離路線で航空会社のシェアを奪っています。

これらの課題は、航空会社が国内線事業の持続可能性を確保するために、新たな戦略や政府との連携が不可欠であることを示唆しています。有識者会議での議論が、国内線の未来をどのように描くのか注目が集まります。

まとめ

お盆期間の搭乗実績は一時的な好調を示しましたが、JALとANAの国内線事業はビジネス需要の低迷、インバウンドの取り込み不足、新幹線との競合といった構造的な課題により、政府の支援がなければ実質赤字という厳しい経営状況にあります。国土交通省が「国内航空のあり方に関する有識者会議」を開催し、国内線の安定的な事業継続の困難さを認識していることは、この問題の深刻さを浮き彫りにしています。今後、持続可能な国内線ネットワークを維持するための抜本的な議論と解決策が求められています。

参考資料

  • Business Insider Japan, 「JAL・ANAは国内線で『実質赤字』。それでもお盆は利用者数で前年超えした航空3社の苦境と構造的な問題」, Yahoo!ニュース, https://news.yahoo.co.jp/articles/4ffbcf400f4cf47317669c5a3edcb6754916507e
  • 各航空会社の2026年3月期第1四半期決算資料
  • 国土交通省 航空局 報道発表資料「国内航空のあり方に関する有識者会議」関連情報