李在明(イ・ジェミョン)韓国大統領が就任後、同盟国の米国より先に日本を訪問したのは、韓国を取り巻く国際情勢の変化と国益を勘案し、日本との安全保障・経済協力が重要だと判断したためだ。
両首脳は、経済安保を含む安保分野での意思疎通の強化で合意した。石破茂首相は外務次官級戦略対話の再開と防衛当局間対話を活用した協力関係強化にも言及した。日米韓の枠内から2国間の戦略的協力関係の強化に踏み込んだ形で、韓国国内の反応が注目される。
韓国の安保環境はウクライナ戦争を巡り激変した。北朝鮮が昨年ロシアと結んだ事実上の軍事同盟条約に基づき兵力を派遣したことで、朝鮮半島有事にロシア軍が関与する危機感が高まった。
日米韓の安保連携が重要性を増しているが、対米外交は依然先行き不透明だ。関税交渉は妥結したものの、韓国経済の屋台骨である半導体への関税は協議が続いている。
李氏は理念よりも実益を重視する政治家だ。日本に対する過激な発言を繰り返した野党時代から一転、前政権が進めた日韓協力と日米韓連携という外交路線を事実上継承した。
来日に際しては1998年の「日韓共同宣言」に続く新たな宣言に意欲をみせ、当時の金大中(キム・デジュン)大統領をモデルとしたい思いがあるのだろう。金氏は敵対勢力だった保守を取り込む形で連立政権を組み、同宣言で過去、現在、未来のバランスをとりながら日韓関係の新時代の幕開けを誓った。
ただ、対日関係を重視する李政権の外交方針は支持団体や与党との確執を高めるものでもある。リスクを伴う決断を無駄にせず、両国民がその恩恵を実感できる協力関係を積み重ねることが日韓関係の安定につながる。
(聞き手 石川有紀)