野津英滉被告の無期懲役判決:宝塚クロスボウ事件、法廷で明かされた心の闇

2020年、兵庫県宝塚市で発生したクロスボウ(ボーガン)による一家殺傷事件。家族3人が命を奪われ、親族1人が重傷を負うという衝撃的な事件で、殺人罪などに問われた野津英滉被告(28)に対する裁判員裁判が神戸地方裁判所で開かれました。松田道別裁判長は2025年10月31日、野津被告に求刑死刑に対し無期懲役の判決を言い渡しました。本稿は、この裁判の傍聴レポートの後編として、被告が事件前に繰り返したインターネット検索の内容、そして法廷で見せた異様な態度から、その心の闇に迫ります。

神戸地方裁判所にて、野津英滉被告への無期懲役判決が下された外観神戸地方裁判所にて、野津英滉被告への無期懲役判決が下された外観

不穏なインターネット検索履歴が明かす殺意の変遷

裁判員裁判において、被告が事件に至るまでのインターネット検索履歴が重要な証拠として取り調べられることは少なくありません。野津被告の場合も同様で、事件前に度々不穏なキーワードで検索を繰り返していたことが明らかになりました。

具体的な検索履歴の一部は以下の通りです。

  • 「肋骨 胸骨 包丁で貫くことできるか」
  • 「クロスボウ 貫通しやすい」
  • 「ボーガン 殺傷能力」
  • 「クロスボウ事件 ニュースにならない」
  • 「ボーガン 頭蓋骨 厚さ」

これらの検索履歴を時系列で見ていくと、当初は包丁を用いた殺害を検討していたものの、途中で凶器をボーガンに変更した経緯が明確に浮かび上がります。最終的に野津被告は「家族の側頭部をボーガンで撃つ」という計画を立て、それを実行に移しました。しかし、伯母に向けられたボーガンの矢は側頭部ではなく首元に命中しています。これは、サイクリングが趣味だった伯母が、事件当日も野津被告に呼び出されて自転車で現場に向かい、ヘルメットを装着したまま家に入ったため、野津被告が側頭部を狙えなかったことによるものです。この詳細な計画性と、予期せぬ状況変化への対応は、犯行の周到さを示すものと言えるでしょう。

法廷で見せた野津被告の異様な姿勢と心身の不調

野津被告は、事件に至るまでの自身の心境を記した陳述書の中で、家族への強い憎悪を克明に語っていました。その中で、脳や腸の不調への対応ができなかったのは家族の存在が原因である、と主張していたにもかかわらず、自らの手で家族を殺害した後も、心身の不調は続いていたようです。実際に、心身の不調を理由に裁判員裁判の予定が一旦取り消される事態も発生しており、2025年に裁判員裁判が再開された際にも、彼の不調は改善されていませんでした。

法廷での野津被告は、坊主頭をほぼ直角に下げ、まるで頭が胸にのめり込みそうなほどの異様な猫背の姿勢を取り続けていました。被告人質問で弁護人から「どこか痛いのか」と尋ねられると、長い沈黙の後に「………首のあたりですかね」と答えています。被告の供述を要約すると、逮捕後、拘置所に身柄を移されてから首の痛みが始まったとのことでした。弁護人から上半身を起こして話せるか問われると、一度は顔を上げたものの、すぐに元の異様な猫背の姿勢に戻ってしまい、弁護人が度々被告人席のマイクの位置を調節する必要があるほどでした。この一連の様子は、被告が抱える心身の深い苦痛や、事件が彼自身にもたらした影響の深刻さを物語っていました。

結び

宝塚クロスボウ事件における野津英滉被告の裁判は、単なる殺人事件の枠を超え、被告の隠された動機、周到な計画性、そして法廷で垣間見えた精神状態の複雑さを浮き彫りにしました。インターネット検索履歴から見て取れる殺意の変遷は、犯行が衝動的なものではなく、綿密に練られたものであることを示唆しています。また、公判中に見せた異様な姿勢と持続する心身の不調は、彼が事件後も深い内面的な葛藤を抱えていた可能性を示しています。この事件は、現代社会における個人の心の闇と、それがもたらす悲劇について深く考えさせるものです。


参考文献: