ロシア経済、長期インフレと消費低迷で「特需」に陰り – 市民生活と産業への影響

ウクライナ侵攻による軍備増強が一時的に「特需」をもたらしたとも言われたロシア経済に、現在、陰りが見え始めています。ロシア統計局が発表した今年4~6月期の国内総生産(GDP)は前年同期比1.1%増に留まり、経済成長の鈍化が顕著です。長引くインフレにロシア市民は不安を募らせ、消費は減少傾向にあります。これに伴い、企業では生産を抑制する動きが広がり、経済全体に低迷の兆しが見られます。

長期化するインフレが市民生活を直撃

モスクワのスーパーで、年金生活を送るリュドミラさん(65)は沈んだ表情で語りました。「食料品だけでなく光熱費も、何もかも値段が上がった。この先も続くと考えると節約せざるを得ず、不安でなりません」。この1年間で、リュドミラさんが利用する商店では物価が軒並み上昇。さらに、月7,000ルーブル(約1万3,000円)だった自宅の光熱費も1,000ルーブル上乗せされ、月4万5,000ルーブルの年金は生活費でほとんど消えてしまうといいます。彼女は現在の苦境の原因を「政治。国と国の関係」と慎重に言葉を選びながら指摘しました。

ロシア統計局のデータによると、7月のインフレ率は前年比8.8%でした。伸び率は4か月連続で低下しているものの、物価の上昇自体は続いており、特に食料品は前年比10.8%増と、市民の暮らしを直接的に圧迫しています。

モスクワのスーパーで買い物をする年金生活者、物価上昇に不安を抱くロシアの消費動向を示す光景モスクワのスーパーで買い物をする年金生活者、物価上昇に不安を抱くロシアの消費動向を示す光景

軍事優先経済と高金利が消費・投資を抑制

ウクライナ侵攻を開始したロシアは、軍需生産を優先する経済体制に移行しました。この政策によって生じたインフレを抑えるため、政府が金利を引き上げたことも、ロシア経済の足かせとなっています。高い金利は、消費と投資の減少を加速させました。

モスクワ中心部では新しいマンションの建設が進められていますが、露紙コメルサントなどの報道によると、今年1月から6月までのマンション販売数は前年同期比で26%減少しました。これは、住宅ローンの金利上昇が一因とされています。新車市場も同様に厳しく、販売台数は前年同期比28%減と大幅に落ち込んでいます。

モスクワ中心街で建設が進む新しいマンション群、高金利が影響するロシアの不動産市場の現状モスクワ中心街で建設が進む新しいマンション群、高金利が影響するロシアの不動産市場の現状

製造業の生産量減少と労働状況の悪化

露紙「独立新聞」によると、ロシアの製造業は資材コストの上昇に直面しており、生産量の減少が続いています。稼働を縮小したり、一時停止したりする工場が増え、労働状況が悪化する「ドミノ状態」に陥っていると指摘されています。特に自動車メーカーでは、稼働日数を週5日から4日に短縮する動きが見られます。旧ソ連時代からの老舗メーカーGAZや、ロシア最大のトラック製造企業カマズは、8月から週4日稼働体制へ移行すると発表しており、製造業の苦境を象徴しています。

まとめ

ロシア経済は、ウクライナ侵攻による軍需優先経済への転換と、それに伴う高インフレ、そしてインフレ抑制のための高金利政策によって、複合的な課題に直面しています。GDP成長率の鈍化、市民の生活を直撃する物価上昇、そして消費・投資の低迷は、不動産や自動車市場の冷え込み、さらには製造業の生産量減少と労働環境の悪化という形で現れています。これらの要因が絡み合い、ロシア経済は「特需」の恩恵から一転、構造的な低迷期に入りつつあるとみられます。

参考文献