ロシアのプーチン大統領が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の執務室を新型の極超音速ミサイル「オレシュニク」で攻撃する提案を拒否したことが、ロシア国営メディアを通じて報じられました。この報道は、ウクライナ紛争が続く中で、ロシアの戦略的意図や国際社会の反応を巡る新たな憶測を呼んでいます。
プーチン大統領、ゼレンスキー執務室攻撃提案を拒否
ロシアのタス通信とリアノーボスチ通信など国営メディアが、ベラルーシ国営ベルタ通信を引用して伝えたところによると、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領がこの日記者団に対し、プーチン大統領がキーウのバンコバ通りにあるゼレンスキー大統領の執務室を「オレシュニク」ミサイルで攻撃する提案を「絶対にだめだ」として拒否したと述べました。ルカシェンコ大統領は、プーチン大統領が平和的な解決を模索しているとの見方を示し、「彼ら(ロシア)は準備ができており、オレシュニクで攻撃すれば何も残らなかっただろう」と付け加えました。
「オレシュニク」はロシアが保有する新型の中距離弾道ミサイル(IRBM)で、射程は約3000~5500キロメートルに及びます。このミサイルは防空網を突破し、36個の小型爆弾に分離して落下する能力を持つ極超音速兵器であり、パトリオットミサイルでの迎撃が困難とされています。さらに、核弾頭を搭載すれば戦術核兵器としても運用可能なため、その存在自体が大きな脅威となっています。
ウクライナのゼレンスキー大統領(左)とロシアのプーチン大統領。ウクライナ紛争の主要人物たち。
背景にある国際情勢とプーチン氏の狙い
プーチン大統領がウクライナの核心部への「オレシュニク」攻撃提案を拒否したという報道は、ドナルド・トランプ前米大統領がウクライナ戦争に関して「侵略国を攻撃しなければ戦争に勝つことはできない」と述べ、ウクライナによるロシア本土攻撃の可能性を示唆した直後に発表されました。これにより、一部ではプーチン大統領がゼレンスキー大統領とは異なり、自身を「節度ある指導者」として国際社会に印象付けようとしているとの分析が出ています。
過去には、ロシアはすでにウクライナ領土へ向けて「オレシュニク」を発射したことがあります。米バイデン政権は当初、ウクライナが米国製長距離ミサイルでロシア本土を攻撃することを禁じていましたが、昨年の大統領選挙敗北後、この政策を転換し、ウクライナによるロシア本土攻撃を許可しました。これに対しロシアは、自国の核ドクトリンを改正し、「核保有国の支援を受けた攻撃は共同攻撃と見なす」と宣言。その数日後にはウクライナのドニプロに「オレシュニク」を発射しています。
ウクライナ戦争の激化と重要インフラへの攻撃
ロシアとウクライナの武力衝突は現在も続いており、互いに攻撃を繰り返しています。ロイター通信などによると、ウクライナ軍は21日夜、ロシアのブリャンスク州西部ウネチャにある原油ポンプ場をドローンで空爆しました。ウネチャのポンプ場はベラルーシとウクライナを結ぶドルジュバ・パイプラインの重要施設であり、この攻撃によりハンガリーとスロバキアへの原油供給が一時的に中断されたとウクライナ軍のドローン部隊指揮官がテレグラムで明らかにしました。
このウクライナ軍による空爆は、18日に続き今週だけで2度目となります。ポリティコ欧州版の22日の報道によれば、トランプ前大統領は18日のウクライナによるロシア送油管攻撃のニュースを聞き、「非常に腹が立った」と発言しました。ハンガリーの政権与党フィデスは、オルバーン首相が送った書簡とこれに対するトランプ大統領の答弁内容が掲載された写真をフェイスブックに投稿し、この事実を公表しています。
一方、ロシアも同日、米電子企業フレックスの工場などがあるウクライナ西部へ向け、574機のドローンと40機のミサイルを発射しました。ウクライナ空軍は、これを「今年に入り最大規模の空中攻撃の一つだった」と発表し、戦争の激しさを浮き彫りにしています。
まとめ
プーチン大統領がゼレンスキー大統領執務室への攻撃提案を拒否したというニュースは、ウクライナ紛争の複雑な側面を示唆しています。しかし、その背景には、極超音速ミサイル「オレシュニク」のような新型兵器の存在と、ウクライナによる重要インフラへの攻撃、そしてロシアによる大規模な報復攻撃が繰り返される現状があります。国際社会の主要国の発言も、この紛争の行方に大きな影響を与えており、今後の展開が注目されます。
参考文献
- タス通信
- リアノーボスチ通信
- ベラルーシ国営ベルタ通信
- ロイター通信
- ポリティコ欧州版