米韓首脳会談(8月25日)が目前に迫る中、米国が韓国に対し「高額な安全保障請求書」を突きつける可能性が浮上し、注目を集めています。これは、単なる防衛費分担金の増額に留まらず、同盟関係のあり方や貿易問題にも波及する複合的な圧力として解釈されており、今後の米韓関係、ひいてはインド太平洋地域の安全保障環境に大きな影響を与える可能性があります。
米国務省が発表した声明では、首脳会談を前に米国が韓国の軍事的・財政的負担拡大に明確に焦点を当てている姿勢が鮮明になっています。特に「インド太平洋地域での抑止力強化」「負担分担の拡大」「米国製造業の再活性化」「貿易関係の公正性と互恵性の回復」といったキーワードが強調されており、安保と通商を切り離さず交渉する米国の意図が見て取れます。
米国務省声明の読み解き:抑止力強化と負担分担の拡大
米国務省の声明に盛り込まれた「抑止力強化」は、在韓米軍の活動範囲を朝鮮半島外に広げる「同盟の現代化」を指すものと分析されています。これには、戦略的柔軟性の拡大や駐留経費の増額といった具体的な要件が含まれるだけでなく、一部では在韓米軍の縮小をも含意しているとの見方もあります。同盟の範囲を広げつつ、そのコストは同盟国がより多く負担すべきだという米国の戦略的な思惑が背景にあると言えるでしょう。
また、「共同負担分担拡大」という表現は、事実上、在韓米軍の駐留経費、すなわち防衛費分担金の増額要求に他なりません。韓国は2026年に1兆5192億ウォン(約1650億円)を負担する予定ですが、米国がこの2倍近い増額を求める可能性も指摘されています。米紙ワシントン・ポストは今年7月末、米政権が韓国に対し、国内総生産(GDP)比で3.8%(2024年は2.6%)への国防費引き上げと、駐留経費として10億ドル(約1450億円)超の追加負担を要求する意向だと報じており、具体的な金額が示唆されています。
ドナルド・トランプ前大統領は、大統領選時から一貫して「韓国は防衛費を増やすべきだ」と主張してきました。7月の閣議でも「韓国は多く稼いでいるが、自国防衛は自ら負担すべきだ」と発言しており、25日の首脳会談で直接的に増額を要求する可能性も否定できない状況です。
米韓外相会談で握手を交わすチョ・ヒョン外相とルビオ国務長官
安保と通商の連動:米製造業再活性化と公正な貿易関係
米国務省が声明に「米国製造業の再活性化」や「貿易関係の公正性と互恵性」といった経済的要素を盛り込んだ点は、安全保障と通商問題を不可分なものとして捉え、相互に関連づけて交渉を進める意思の表れと解釈されています。これは、安保上の協力と引き換えに、米国の経済的利益も確保しようとする包括的なアプローチを示唆しています。
実際に、韓国からはキム・ジョングァン(金正官)産業通商資源相とヨ・ハング(呂翰九)産業通商資源省通商交渉本部長が前後して訪米しており、外相会談の議題に通商問題が含まれていたことも、この安保と通商の連動という米国の戦略を裏付けるものとみられます。
外交舞台裏の動き:外相の急遽訪米が示唆するもの
今回の首脳会談を巡る外交の舞台裏では、異例の動きがありました。韓国のチョ・ヒョン(趙顕)外相は当初、イ・ジェミョン(李在明)大統領の訪日に同行する予定でしたが、これを急遽取りやめ、20日の内部協議を経てワシントン入りしました。外相が首脳の公式日程から外れて渡米するのは極めて異例であり、米韓間の協議において深刻な懸案が生じているとの観測を呼んでいます。
米シンクタンク「アメリカ企業研究所(AEI)」のジャック・クーパー研究員は、現在の米韓関係について「韓国は同盟を楽観視しすぎている。私はより悲観的に見ている」と指摘しており、米韓関係の調整が不透明な状況にあることを示唆しています。
今後の米韓関係と首脳会談への期待
韓国外務省によると、チョ外相はルビオ国務長官に対し、「韓米首脳会談の歴史的意義と重要性」を強調し、会談の成功に向けた協力を要請しました。両者はまた、両国間に残された未解決の通商問題についても、協議を進展させるべく努力することで一致しました。
今回の米韓首脳会談は、単に両国の関係を強化するだけでなく、米国の求める負担増要求、そして安保と通商を絡めた複合的な交渉に、韓国がどのように対応するかが試される重要な機会となるでしょう。その結果は、日米韓の連携を含むインド太平洋地域の安全保障と経済秩序にも影響を及ぼすため、日本を含む国際社会からも高い関心が寄せられています。
参考文献
- KOREA WAVE/AFPBB News (2025年8月25日)
- Yahoo!ニュース (2025年8月25日) 「米韓首脳会談迫る、米国から韓国に「高額安保請求書」の可能性」
- ワシントン・ポスト (2025年7月末報道) – 韓国の国防費引き上げと駐留経費追加負担に関する報道