病院倒産が過去5年で最悪水準:中堅病院の経営危機と地方医療への影響

日本全国で病院の倒産が相次ぎ、特に病床数20床以上の中堅病院の経営悪化が顕著となっています。この深刻な状況は、地域によっては「医療空白エリア」の拡大リスクを高め、国民の医療アクセスに大きな影を落としています。経済情勢の変化や、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中で、日本の医療機関が直面する経営課題とその背景を深く掘り下げます。

閉鎖された病院の外観、日本の医療機関が直面する経営難を象徴するイメージ閉鎖された病院の外観、日本の医療機関が直面する経営難を象徴するイメージ

中堅病院に迫る経営の現実:吉祥寺地域の事例から

筆者が季節の変わり目に風邪をひき、最寄りの吉祥寺駅周辺で病院を探した際、病床19床以下のクリニックばかりで、20床以上の病院が少ないことに気づきました。実際、かつて駅周辺に存在した水口病院や吉祥寺南病院も、廃院や診療休止に追い込まれています。これらの病院が経営難に陥った要因としては、新型コロナウイルス感染症による経営悪化に加え、老朽化した建物の建て替えに必要な建築資材の価格高騰などが挙げられます。これは、全国各地の中堅病院が直面する厳しい現実の一端を示しています。

データが示す深刻な実態:東京商工リサーチの調査結果

東京商工リサーチが発表した「2025年上半期 20床以上の病院倒産が急増 『病院・クリニック』倒産21件、5年連続で前年同期を上回る」というリポートは、この危機的状況を明確に示しています。2025年上半期(1~6月)における病院・クリニック(負債1000万円以上)の倒産件数は21件に達し、前年同期比16.6%増を記録しました。これは5年連続の増加であり、リーマン・ショックの影響が大きかった2009年同期の26件以来の高水準です。

特に注目すべきは、病床数20床以上の病院の倒産が8件と、前年同期の2.6倍に急増した点です。このうち、従業員50人以上300人未満の中堅規模病院が6件(前年同期1件)を占め、従業員300人以上の病院も2件(0件)発生するなど、その規模の倒産が目立ちます。東京商工リサーチ情報本部経済研究室の佐藤陽子氏は、「今年の1~5月の調査時点で、すでに昨年の上半期と同じ倒産件数となっていた。改めて今年上半期を調査したところ、昨年同期を上回る結果が出た」と述べ、倒産増加の傾向が続いていることを強調しています。

経営悪化の背景:物価高騰と「ゼロゼロ融資」の重圧

医療機関の収益悪化を加速させている主な要因は複数あります。独立行政法人福祉医療機構(WAM)によるコロナ禍の「ゼロゼロ融資」の本格的な返済開始がその一つです。加えて、診療報酬の上昇が物価高に追いつかず、医師や看護師などの人件費、入院患者の食材費、さらには光熱費の高騰など、運営コストが急増しています。これらの複合的な要因が、特に体力のない中堅病院の経営を圧迫し、倒産という厳しい現実に追い込んでいるのです。

結論

日本の病院、特に地域医療を支える中堅病院が、経営難により相次いで倒産している現状は極めて深刻です。コスト高騰と「ゼロゼロ融資」の返済圧力が重なる中で、医療機関の収益改善が追いつかず、この傾向は今後も続く可能性が高いと見られています。このままでは、医療サービス提供体制が脆弱になり、「医療空白エリア」が拡大することで、国民の健康と生活に重大な影響を及ぼしかねません。持続可能な医療提供体制を維持するためには、抜本的な対策が喫緊の課題となっています。

参考文献