芥川賞作家✕東洋経済オンラインの「異色コラボ」連載小説!
「子供部屋おじさん」が、あなたの復讐、請け負います。パワハラ、詐欺、痴漢冤罪(えんざい)、書店万引き――。裁かれぬ現代社会の悪を、人知れず断罪する者たちがいた。ダークウェブに潜む謎の復讐代行組織「子供部屋同盟」。
社会から疎外された「子供部屋おじさん」たちが、その特異なスキルを武器に、歪んだ正義を執行する。芥川賞作家・高橋弘希が放つ痛快無比の世直しエンタメ『子供部屋同盟』より、第1章を4日に分けて毎日お届けします(今回は2日目)。
■通称“壊し屋”のパワハラ上司・西野
太一は私立大学を卒業したのちに、大手企業の日成台不動産へと入社した。埼玉西地区の坂戸(さかど)営業所へと配属され、一年目は学生気分も抜けず、上司の所長に叱責されることもあったが、新卒としては平均的な営業成績を残していた。二年目の後半からは、営業主任を務めるようになる。
しかし坂戸営業所全体の成績は、芳しくなかった。駅の反対口に、業界最大手の川東コーポの営業所ができたのだ。ある程度の顧客が川東コーポへ流れることは避けられない。
そして三年目の春、人事異動で坂戸営業所へ赴任してきたのが、所長とAM(エリア・マネージャー)を兼任する西野友和だった。
髪は短く刈り込み、武骨な四角形の顔をしている。かなりの大柄で、学生時代は空手をやっていたらしく、肩の筋肉が隆起している。常にモスグリーンの背広を着ていて、なんでも同じものを何着か持っているらしい。
西野の噂は、他の営業所の同期から聞いていた。通称“壊し屋”とも呼ばれ、これまでに何人もの部下を離職に追い込んでいる。しかし持ち前の強引な営業力で成績は高く、上層部にも一目置かれ、三十八歳の若さで埼玉西地区を管轄するAMの地位にまで上りつめた。
つまりは業績不振の坂戸営業所を立て直すために異動してきたのだ。
坂戸営業所は、太一を含めて営業が三名、内勤が三名、経理担当の女子社員の能登(のと)さん、年配の男性事務職員が一人という人員構成だった。
西野は女子には甘く、契約社員には距離を置き、年配職員には興味を示さない。槍玉に挙げられるのは、直属の部下である営業主任の太一だった。
以前の所長も叱責はしたが、それは指導や教育の範疇で、どこか太一の成長を促している節があった。西野は違う。






