「この給料泥棒が!」部下を罵倒し続けた38歳パワハラ上司が“社会的に”抹殺された恐怖の復讐劇 『子供部屋同盟』1章②


 太一は私立大学を卒業したのちに、大手企業の日成台不動産へと入社した。埼玉西地区の坂戸(さかど)営業所へと配属され、一年目は学生気分も抜けず、上司の所長に叱責されることもあったが、新卒としては平均的な営業成績を残していた。二年目の後半からは、営業主任を務めるようになる。

 しかし坂戸営業所全体の成績は、芳しくなかった。駅の反対口に、業界最大手の川東コーポの営業所ができたのだ。ある程度の顧客が川東コーポへ流れることは避けられない。

 髪は短く刈り込み、武骨な四角形の顔をしている。かなりの大柄で、学生時代は空手をやっていたらしく、肩の筋肉が隆起している。常にモスグリーンの背広を着ていて、なんでも同じものを何着か持っているらしい。

 西野の噂は、他の営業所の同期から聞いていた。通称“壊し屋”とも呼ばれ、これまでに何人もの部下を離職に追い込んでいる。しかし持ち前の強引な営業力で成績は高く、上層部にも一目置かれ、三十八歳の若さで埼玉西地区を管轄するAMの地位にまで上りつめた。

 坂戸営業所は、太一を含めて営業が三名、内勤が三名、経理担当の女子社員の能登(のと)さん、年配の男性事務職員が一人という人員構成だった。

 西野は女子には甘く、契約社員には距離を置き、年配職員には興味を示さない。槍玉に挙げられるのは、直属の部下である営業主任の太一だった。

 以前の所長も叱責はしたが、それは指導や教育の範疇で、どこか太一の成長を促している節があった。西野は違う。



Source link