夏の甲子園として知られる第107回全国高校野球選手権大会は、沖縄尚学の初優勝という感動的な幕を閉じました。球児たちの熱戦を後押しし、大会を彩るのが、出場校の生徒やOBOGらが一体となって応援する「アルプススタンド」です。カラフルな応援Tシャツを身につけ、吹奏楽部の演奏に合わせてチアリーダーと一体となり会場を盛り上げる光景は、まさに夏の風物詩。しかし、全国各地から貸し切りの観光バスなどで甲子園に駆けつけるこの大規模な応援には、学校側に重くのしかかる高額な費用が現実として存在します。1試合あたり数千万円に上るとの報道もあり、学校が勝ち進むほど遠征費用はかさみ、生徒たちの自己負担も増加。クラウドファンディング(CF)などで寄付金を募るなど知恵を絞っても、その支援には限界が見えています。国内最大級のスポーツイベントでありながら、主催者側が積極的に収益を上げて学校側へ還元する姿勢が乏しいのは、「高校野球はあくまで教育の一環」という大義名分が背景にあると指摘されています。
激化する「応援費用」の現実と主催者の姿勢
甲子園出場の喜びの裏で、各学校は応援費用の捻出という大きな課題に直面しています。報道によれば、1試合あたりの応援にかかる費用は数千万円にも及ぶとされ、これは球児たちが勝ち進めば進むほど膨れ上がるため、学校や生徒、保護者への経済的負担は計り知れません。沖縄尚学のようにクラウドファンディングを活用して寄付金を募る動きは広まっているものの、全校規模での応援費用をすべて賄うには十分とは言えません。
この問題の根源には、高校野球の運営体制が関わっています。主催者側は、このメガイベントから多大な収益を上げているにもかかわらず、学校側へその収益を積極的に還元する姿勢を見せていません。その理由は、「高校野球は教育活動の一環である」という理念に基づいているため、商業的な側面を強調することを避ける傾向にあるからです。しかし、この理念が、現実的な学校の財政的困難を放置する要因となっているとの批判も存在します。
優勝校・沖縄尚学に学ぶ、資金集めの知恵と課題
今年の優勝校である沖縄尚学は、決勝前日の8月22日に地元紙の沖縄タイムスで「沖縄尚学、クラファン1千万円達成」と報じられました。このクラウドファンディングは、学校関係者やPTAなどで構成される「沖縄尚学高等学校野球部を甲子園に送る会」が、選手らの宿泊費や渡航費に充てるべく7月に立ち上げたものです。当初は目標額の30%程度の支援に留まっていましたが、決勝進出が決定した8月21日の夜から支援が急増し、最終的にチームは8月23日の決勝で日大三(西東京)を破り、頂点に立ちました。CFサイト上の支援額は、同25日13時の時点で2000万円に迫る勢いを見せています。
第107回夏の甲子園で優勝を決め、喜びに沸く沖縄尚学高校野球部員たち
学校応援コミュニティーサイト「Yellz(エールズ)」のサイトでも、公立・私立を問わず他の甲子園出場校がクラウドファンディングによる支援を呼びかけ、数百万円単位の寄付金を集めています。高校のクラブ活動における全国大会出場時の寄付金募集は昔から行われてきましたが、クラウドファンディングのように広く支援を募る現代の手法をもってしても、甲子園での全校応援にかかる費用を完全に埋め合わせるには十分ではないのが現状です。
高騰する遠征費用:バス代2.5倍、酷暑対策も
さらに、近年の社会情勢が応援費用問題に追い打ちをかけています。西日本新聞の8月22日付記事によると、学校側が手配する貸し切りバスの費用は、人件費や燃料費の高騰により大きく影響を受けています。創成館(長崎)の関係者の話では、貸し切りバス1台あたりの費用は10年ほど前と比較して「2.5倍になった」と伝えられています。また、近年は記録的な酷暑が続くため、応援団用の氷やバッテリー付きクーラーボックスなど、熱中症対策のための新たな出費も増えており、学校の財政をさらに圧迫しています。
夏の甲子園は、球児たちの夢の舞台であり、国民的関心を集める一大イベントです。しかし、その華やかな舞台裏では、参加する学校が応援費用の捻出という厳しい現実に直面しています。クラウドファンディングなどの新たな資金集めの方法が導入されつつありますが、貸し切りバス代の高騰や酷暑対策といった追加コストが、その努力に影を落としています。「教育の一環」という大義名分だけでなく、全国の高校生にとって公平かつ持続可能な参加環境を確保するためには、主催者側や社会全体がこの費用負担の問題に真摯に向き合い、具体的な解決策を模索することが喫緊の課題と言えるでしょう。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 「夏の甲子園」優勝校も「支援」呼びかけ…膨らむ応援費「教育の一環」に潜む限界 (2023年8月27日掲載)
- 沖縄タイムス: 2023年8月22日付記事 (沖縄尚学のクラウドファンディングに関する報道)
- 西日本新聞: 2023年8月22日付記事 (貸し切りバス費用高騰に関する報道)
- Yellz(エールズ): 学校応援コミュニティーサイト