日本全国でクマ被害が過去最多、自治体の「苦悩」と背景にある誤解

日本各地でクマによる人身被害が深刻化しており、政府も本格的な対策に乗り出しました。これまでクマを駆除した自治体に対しては、「なぜ殺したのか」といった非難の電話が殺到し、業務に支障をきたすほどでしたが、この異常事態を受けて状況は変化しているのでしょうか。

クマ人身被害が過去最多を記録:深刻化する全国の状況

全国的にクマによる人身被害が多発し、その深刻さは増すばかりです。2025年度において、クマに襲われて死亡した人の数は10月30日時点で過去最多の12人に達しました。これは、これまで最多だった2023年度の6人から倍増という、極めて憂慮すべき状況を示しています。この未曽有の事態に対し、各自治体は対応に追われています。

札幌市の対応と「両極端」な住民意見

北海道札幌市では、10月のヒグマ出没情報が120件を超え、月間過去最多を記録しました。9月には公園内で男性がヒグマに襲われる事案も発生し、10月24日には市内の公園で子グマ2頭が「緊急猟銃」で駆除されるなど、前例のない状況への対応を迫られています。市の担当者は、「被害が多発しているためか、電話の件数自体は減ってきていると思います」と語る一方で、「クマを殺すな」という意見と、逆に「絶滅させても影響はない」という両極端な主張の電話が依然として目立つと明かします。中には1時間を超えても話し続ける人もおり、自治体の業務負担は軽減されていません。

山から人里に近づくクマのイメージ写真。全国各地でクマによる人身被害が多発し、自治体が対応に追われている様子を示唆。山から人里に近づくクマのイメージ写真。全国各地でクマによる人身被害が多発し、自治体が対応に追われている様子を示唆。

誤解を生む「餌やり」や「太陽光パネル」への声

自治体への苦情や意見の中には、現実を理解していない内容も少なくありません。「餌場を作ってやれ」「森にドングリをまいてあげろ」といった安易な解決策を提案する声や、「太陽光パネル設置で森を開発したからこうなるんだ」と、事実に基づかない批判も多く寄せられます。これらの意見は、クマ出没の真の原因や適切なクマ対策への理解を欠いている場合がほとんどです。

自然の摂理と人里の環境変化:クマ出没の真実

札幌市の担当者は、こうした誤解に対し、冷静な説明を試みています。北海道では、今年度、道内全体でヒグマの餌となるドングリが「凶作」であると10月7日に発表されています。担当者は、「昨年はドングリが豊作だったため、子グマも増えたのでしょう。今年は一転して餌がないため、クマが人里に下りてくる要因の一つとなっています。豊作の年もあれば凶作の年もあるのが自然界の摂理であり、人間が安易に餌場を作ったり、ドングリを森にまいたりしても解決する問題ではありません」と強調します。

また、太陽光発電のために森を切り開いた事実はないと指摘し、クマが出没する背景には、高齢化や過疎化によって放置された畑や木々が増え、森と人里の境界線があいまいになっていることなど、複数の要因が複雑に絡み合っていることを説明しました。市では、長時間の電話や相手の言葉が乱暴になった場合は、相手に断ったうえで電話を切る対応をとっており、自治体側の苦悩が浮き彫りとなっています。

結論

日本全国でクマによる人身被害が過去最多を記録する中、各自治体は住民の安全確保と野生動物の管理という困難な課題に直面しています。札幌市の事例が示すように、現場では誤解に基づく意見や苦情への対応にも追われており、真に効果的なクマ対策を講じるためには、市民一人ひとりがクマの生態や出没の背景にある複雑な要因を正確に理解し、冷静かつ建設的な議論を深めることが不可欠です。

参考資料