安倍晋三元首相銃撃事件という社会に大きな衝撃を与えた出来事において、殺人や銃刀法違反などの罪に問われている山上徹也被告(45)の裁判員裁判が、2023年10月28日に初公判を迎えました。連日開かれた公判は年末までに最大19回が予定されており、世間の注目を集めています。事件の背景に深く関わる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を20年以上にわたり追い続けてきたジャーナリストの鈴木エイト氏は、傍聴席で「衝撃を受けた」と語ります。その注目の初公判で、鈴木氏が感じ取った山上被告の姿や、裁判の焦点について詳細に分析します。
山上徹也被告、法廷での第一印象とその変遷
山上徹也被告の法廷での印象は、初日と2日目で大きく異なると鈴木エイト氏は指摘します。公判初日には、どこか「ふてぶてしさ」を感じさせる態度が見受けられましたが、2日目にはその印象が変化したと言います。気だるそうな表情や猫背気味にゆっくりと歩く様子からは、特定の意図的な態度というよりも、被告人本来のしぐさや歩き方である可能性が高いと鈴木氏は見ています。
初日の公判後、弁護団の松本恒平弁護士に「今日の法廷での彼の態度について、普段の接見時と違いがありましたか?」と尋ねたところ、「あまり差は感じなかった」との回答がありました。これは、山上被告が普段から自ら積極的に話すタイプではなく、弁護士側から話しかけられ、時間をかけてゆっくりと答えるスタイルであることを示唆しています。事件当時の映像や高校時代の写真から形成された一方的なイメージが、実像とは異なる可能性も浮上しました。
ジャーナリスト鈴木エイト氏、旧統一教会の追跡20年以上
長期拘束がもたらす影響と「拘禁症状」の可能性
山上被告の法廷での態度や表情に関して、鈴木氏は3年3カ月に及ぶ拘束生活が与えた影響、特に「拘禁症状」の可能性についても言及しています。元々、対人関係やコミュニケーションが苦手だったとされる山上被告は、事件以前から人との接触が少ない生活を送っていました。このような状況下での長期間にわたる孤独な拘束状態が、彼の外見的、心理的な側面に影響を及ぼしているのではないかという推測です。
初公判で初めて公の場に姿を現し、被告人席に座った際には、傍聴席の視線を遮るような動きも見られましたが、翌日には顔を隠すことはありませんでした。弁護団によると、山上被告自身が「人前でああいう態度を取るのは、どう受け止められると思いますか?」と、自身の行動が他者にどう映るかを気にしていたとのことです。このことは、彼が世間の目を意識している一面を示していると言えるでしょう。
法廷の場における「シャイな一面」と外見的印象
鈴木エイト氏自身も、初日の公判で受けた「ふてぶてしい印象」についてテレビ番組などでコメントしましたが、2日目以降の印象は大きく異なり、どこか「シャイな一面」が見えたと述べています。また、腰縄と手錠をつけて歩く際の姿勢は、どうしても猫背気味になりがちであり、この身体的な制約が、視覚的に「やや荒んだ」印象を与えてしまう可能性も指摘されています。法廷での彼の振る舞いを多角的に捉えることの重要性が浮き彫りになります。
安倍元首相銃撃事件、初公判へ向かう山上徹也被告を乗せた車両
裁判の焦点と旧統一教会問題の関連性
この裁判の直接的な焦点は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題性自体や、教団と政界との関係を問うものではありません。したがって、それらの問題が法廷で直接認定されることはないと考えられます。しかし、弁護団は、山上被告が教団と政界の関係をどのように捉えていたか、その動機が「一方的な逆恨み」に過ぎなかったのかという点について、決してそうとは言い切れない、一定の合理性や背景があったことを示そうと試みています。
教団自体の問題性を示す裏付けとしては、既に東京地方裁判所によって教団の解散命令が出ているという事実があります。これは、山上被告の動機が個人的な感情だけでなく、広く社会的に問題視されている教団の存在と深く結びついていることを示唆する間接的な要素となり得るでしょう。今後の公判では、山上被告の精神状態や動機形成に至る経緯が、より詳細に掘り下げられていくことが予想されます。
結び
山上徹也被告の初公判は、被告人の内面や動機、そして裁判のあり方について、多くの考察を促すものでした。ジャーナリスト鈴木エイト氏の綿密な傍聴レポートは、表面的な情報だけでなく、人間の心理や社会背景が複雑に絡み合う事件の深層に光を当てています。この裁判は、単なる刑事事件としてだけでなく、日本の社会、政治、そして宗教問題に新たな問いを投げかける重要な機会となるでしょう。




