かつて日雇い労働者の街として知られた大阪市西成区のあいりん地区は、今、大きくその姿を変えつつあります。外国人旅行者、YouTubeクリエイター、そして中国資本といった多様な要素が混在するこの街は、一体どこへ向かうのでしょうか。『ワイルドサイド漂流記』の著者であるルポライター國友公司氏と、『ニセコ化するニッポン』などの著書を持つ都市ジャーナリスト谷頭和希氏が、日本の都市開発とあいりん地区の未来について語り合いました。
大阪・あいりん地区の典型的なドヤの一室。かつて日雇い労働者が寝泊まりした簡素な部屋の様子を捉えている。
西成は「危ない街テーマパーク」と化す
國友氏は、2018年頃に西成区あいりん地区に住み込んでいた頃と比べ、ここ数年でYouTuberの数が爆発的に増えたことに言及。「その結果、西成はまるで『危ない街テーマパーク』になってしまった」と感じています。
谷頭氏もこの見解に強く同意し、「面白半分で乗り込んでくるYouTuberたちによって、かつてヨーロッパ人がアフリカ大陸の異文化を珍しい見世物として眺めていたような、搾取的な構図が生まれている気がする」と述べました。同時に、自身も西成を「消費」しているのではないかという問い返しを常に感じていると明かします。國友氏もまた、実際に西成でYouTubeの撮影を行う中で、同様の自問を抱えていると語りました。
谷頭氏は最近の西成を訪れた際、動物園前駅近くのドヤに宿泊した経験を語りました。ロビーは外国人バックパッカーやビジネスパーソン向けのノマドワーカー空間としてお洒落に演出されているものの、部屋に入ると昔ながらのままで、ゴキブリがいるような実情があったと言います。
表面的な美化と失われた「危なさ」の本質
國友氏は、ロビーはきれいに改装されているのに、部屋は何も変わっていない現状を「側(ガワ)だけ整えているだけ」と表現しました。そして、この「テーマパーク化」がもたらした皮肉な結果として、「みんなが『危ないぞ』と騒ぎすぎたために、逆に多くの人が訪れ、街が一般化し、本来の『危なさ』が失われてしまったように感じる」と指摘します。さらに、街の変貌は劇的に一夜で起こるのではなく、徐々に進むため、誰も昔の姿を正確に覚えていないという寂しさを語りました。
谷頭氏もまた、國友氏の著書『ワイルドサイド漂流記』の中で、西成の変化に対して抱かれている、そうした複雑な感情や寂しさについて触れ、共感を示しました。この地域が直面する都市開発の現実と、その中で失われていくものの価値について、両氏の対談は深く掘り下げています。
あいりん地区の変容は、日本の特定の地域が抱える社会問題や都市開発の課題を象徴しています。ドヤ街としての歴史を持つこの街が観光地化する中で、そのアイデンティティや本来の姿がどのように変化し、失われていくのかは、引き続き注目すべきテーマです。
参考文献:
- 國友公司『ワイルドサイド漂流記 歌舞伎町・西成・インド・その他の街』文藝春秋
- 谷頭和希『ニセコ化するニッポン』KADOKAWA
- Yahoo!ニュース / PRESIDENT Online 記事「あいりん地区が『危ない街テーマパーク』になった皮肉…ロビーは外国人向けにオシャレなのに部屋はゴキブリだらけ」(2025年8月27日)