「安すぎる出国税」3000円引き上げ案が浮上:その背景と訪日客の反応

日本を出国する際に課される「出国税」は現在、日本人・外国人問わず一律1000円が徴収されています。この出国税について、現行の3倍にあたる3000円への引き上げ案が政府内で検討されており、大きな注目を集めています。急増する訪日外国人観光客による税収の過去最高更新、そして日本の税額が国際的に見て「安すぎる」という指摘が、今回の議論の背景にあります。

訪日外国人の急増が税収を押し上げ、過去最高を記録

「出国税」は2019年から導入され、航空券代に上乗せされる形で徴収が開始されました。しかし、その存在を具体的に認識している旅行者や出張者は少ないのが現状です。あるアメリカへ旅行する人は「出国税?知りません」と答え、ベトナムへ定期的に出張する人も「あまり気にしていない。たぶん飛行機のお金と一緒なので」と語っています。

この1000円の出国税による税収は、近年、訪日外国人観光客の急増に伴い大幅に増加しています。2024年度の訪日客数は3800万人と見込まれており、これにより出国税収は524億8000万円に達し、過去最高を更新しました。この経済効果が、税額引き上げの具体的な検討を後押ししています。

石破総理が言及する「日本の出国税の安さ」と国際比較

政府内で出国税の引き上げが検討される背景には、日本の出国税が他国と比較して安価であるという認識があります。石破茂総理大臣は、「日本国民が納税によって様々なインフラを整備してきた。その恩恵を味わっていただくための費用ということであれば、外国人の方からも出国税を頂戴することについて、きちんと説明がつくのではないか」と述べ、政府内でこの件を検討する意向を示しました。

石破総理が指摘するように、日本の出国税1000円は国際的に見ると比較的低い水準にあります。例えば、エジプトは25ドル(約3900円)、オーストラリアは7000円、アメリカは3500円と、多くの国で日本よりも高額な出国税が設定されています(※為替レートは1月時点)。一方で、韓国は約800円と日本よりも安い国も存在します。さらに、ファーストクラスの乗客には約3万5000円、エコノミークラスの乗客には約7300円など、座席のクラスによって出国税額を変えている国もあります。

日本の出国税引き上げを検討する石破茂総理大臣日本の出国税引き上げを検討する石破茂総理大臣

専門家が提言する3000円の妥当性と税収の活用法

九州大学の田中俊徳准教授は、出国税の妥当額について見解を述べています。「この税が高すぎると、日本に行くのをやめようという人も多く出てくる。そうしたことを踏まえると、海外での平均的なところを取ると、今議論されている3000円ぐらいが妥当な金額ではないかと思います」。引き上げが観光需要に与える影響を考慮しつつ、国際的な水準に合わせるべきだとの意見です。

さらに、田中准教授は税収の使い道についても言及しています。「宿泊税でオーバーツーリズム対策費用を賄うことができるが、どうしても日帰り観光客が多い自治体というのがある。こうしたところは宿泊税を入れても、なかなかオーバーツーリズム対策の費用の捻出が難しい」。各地で深刻化するオーバーツーリズム問題に対し、専門家は宿泊税収が少ない地域へ出国税を分配することが、効果的な対策に繋がると提言しています。これは、特定の観光地に集中する負担を軽減し、より広範な地域での観光環境整備に貢献する可能性を示唆しています。

訪日外国人の意外な反応と、増額案を巡る課題

実際に税金を支払う側である訪日外国人観光客からは、意外な反応も聞かれます。アメリカから2週間観光に訪れた人は、「(日本の出国税は1000円ですが)思ったより全然安いですね。5000円でもそんなに高く感じません。1万円でも旅行総額から見たら大したことないし、日本はそれ以上に魅力的だからいくらでも払いますよ」と、日本の魅力の高さから、高額な税金にも抵抗がない姿勢を示しました。また、別の10日間観光したアメリカ人旅行者も、「快適に旅行できたので、増税はいらないと思いますが、私が払った分の恩恵を受けられるなら、上げてもいいと思います」と、税の使途が明確であれば納得できるとの見方を示しました。

一方で、外国人だけに増額する案も浮上していますが、財務省はこれに対して否定的な見解を示しています。財務省によると、「(外国人だけ増額は)租税条約違反の恐れがあります」とのこと。これは、国際的な租税条約において、国籍によって税負担に差を設けることが制限されているためです。したがって、出国税を引き上げる場合は、日本人・外国人問わず一律に適用される形となる可能性が高いと見られています。

結論

日本の出国税1000円から3000円への引き上げ案は、訪日外国人観光客の急増による過去最高の税収、そして国際的な水準から見て「安すぎる」という認識を背景に議論されています。政府は、日本が整備してきたインフラの恩恵に対する対価として、税額の見直しを検討。専門家は3000円という金額を妥当と見なし、税収をオーバーツーリズム対策が難しい地域へ分配する活用法を提案しています。

一方で、多くの訪日外国人は現行の税額が安すぎると感じており、増額に対する抵抗は少ないものの、その使途の明確化を求める声も上がっています。また、外国人だけに増税することは租税条約に抵触する恐れがあるため、慎重な検討が求められています。今回の議論は、日本の観光政策、インフラ維持、そして国際的な税制との調和をどのように図っていくかという、多角的な課題を浮き彫りにしています。


参考文献: