自民党、結党70年で直面する最大の危機:石破政権二連敗と派閥政治の崩壊

2025年、日本の政治中枢を長きにわたり担ってきた自由民主党が、結党70年という節目の年に、かつてないほどの深刻な危機に瀕しています。石破茂首相のリーダーシップの下、2024年10月の衆議院総選挙と2025年7月の参議院選挙で立て続けに敗北を喫し、衆参両院で与党が過半数を割り込む「少数政党並存」という新たな政治局面が到来しました。この歴史的敗北は、自民党の根幹を揺るがし、その存続すら問われる事態へと発展しています。

少数政党並存時代への移行と石破首相の苦境

石破首相が率いる自民党は、直近の衆参二連敗という国民の厳しい「自民ノー」の審判を受けました。これにより、日本の政治は二大政党制の時代から、多様な民意を反映する多党システムへと移行しつつあります。国民民主党の玉木雄一郎代表は、2025年5月のインタビューで、「かつての2大政党体制は無理です。多様な民意を捉え切れない。この多党システムが常態化するでしょう」と述べ、この変化が一時的なものではなく、恒久的な政治構造となる可能性を示唆しています。

首相官邸に入る石破茂首相。2025年8月22日、衆参両院選挙での二連敗後、自民党の危機的状況下で政権運営を続ける姿。首相官邸に入る石破茂首相。2025年8月22日、衆参両院選挙での二連敗後、自民党の危機的状況下で政権運営を続ける姿。

二連敗後も続投を表明した石破首相に対し、党内では早くも「石破降ろし」の動きが表面化。森山裕幹事長は、8月中に参院選の総括を行うと約束し、自身の交代を示唆しましたが、その期限が迫る中で総括が首相の進退に直結する可能性は小さくありません。現在の日本政治における主要な焦点は、(1)次期首相は誰になるのか、(2)連立組み替えを含む政権の枠組みはどうなるのか、そして(3)結党後最大の危機に直面した自民党は果たして生き残れるのか、という3点に集約されます。

結党の原点と変質:派閥政治の功罪

自民党の起源は、70年前の「保守合同」に遡ります。当時の日本民主党と自由党が合流して結成された自民党は、「8個師団」と称された日本民主党の4派と自由党の4派、さらに複数の小集団からなる、まさに「派閥連合体」として出発しました。

保守合同の牽引者の一人であり、日本民主党の最後と自民党最初の幹事長を務めた岸信介元首相は、1978年5月のインタビューで、立党の背景を次のように語っています。「合同前の55年2月に総選挙をやったけど、真に戦うべき相手は日本社会党だと思っていたのに、実際の相手は自由党なんだよ。全国で自由党の攻撃ばかりやる。日本民主党が第一党になったが、過半数に届かなかった。そのために政局が常に不安定なんだ。同じ政党になっても派閥が違うようなもの。政局安定のために合同する必要があった」。この言葉は、安定した政治運営のために派閥を超えた大同団結が不可欠であった当時の状況を如実に物語っています。

しかし、その結党以来の派閥政治が、67年後の2022年末、岸田文雄前首相時代に発覚した政治資金パーティー収入の裏金問題の引き金となり、自民党衰弱の元凶となりました。石破政権下での衆参両院での与党過半数割れは、長年不動の骨組みとされてきた派閥主導体制の崩壊を加速させ、党の内実は今や支持基盤も党組織も国会議員集団としても総崩れの「シロアリ政党」という声が上がり始めています。

自民党衰弱の五つの要因

自民党が直面する未曾有の危機には、複合的な要因が絡み合っています。主な要因として、以下の5点が挙げられます。

  1. 派閥機能の停止と支持基盤の「融解・液化」: 裏金問題以降、派閥の活動が事実上停止し、長年にわたり党を支えてきた派閥を通じた組織動員や人材育成機能が失われました。これにより、党の支持基盤そのものが「融解・液化」し、党への求心力が低下しています。
  2. 裏金問題による保守浮動層の離反: 政治資金パーティーを巡る裏金問題は、これまで自民党を支持してきた保守的な浮動票層の信頼を大きく損ねました。国民の政治不信が高まる中で、クリーンな政治を求める声が強まり、党離れが進んでいます。
  3. 民意の価値観の多様化: 国際化、少子高齢化、情報化、デジタル化といった社会の大きな変化に伴い、国民の価値観は急速に多様化しています。自民党の伝統的な政策やイデオロギーが、この多様な民意を捉えきれなくなり、支持層の高齢化も相まって若年層からの支持獲得に苦戦しています。
  4. 小選挙区比例代表並立制の長期的な影響: 29年前に導入された衆議院の小選挙区比例代表並立制は、当初、政権交代可能な二大政党制の形成を目指しましたが、その結果、無党派層や浮動票の動向が選挙結果を大きく左右するようになりました。これは、党の固定票を弱め、政党の基盤を不安定化させる一因となっています。
  5. シルバー民主主義への偏重の弊害: 高齢化が進む日本において、自民党は長年、高齢者層の支持を重視する政策を展開してきました。しかし、これが若年層や子育て世代のニーズとの乖離を生み出し、社会全体の活力を損なう「シルバー民主主義」の弊害が顕在化し、将来世代からの批判を浴びています。

これらの要因が複雑に絡み合い、自民党は結党以来最大の危機に直面しています。この状況を乗り越えるためには、党の抜本的な改革と、時代の変化に即した新たな政治ビジョンの提示が不可欠です。


参考文献:

  • AERA 2025年9月1日号
  • 塩田潮 (ノンフィクション作家)