人口減少と国内市場の縮小が進む日本において、外国人材との共生は避けて通れない課題となっています。しかし、言葉や文化が異なる人々との共生は、常に理想通りに進むわけではありません。人材マッチングを手がける中村大介氏の著書『日本人が知らない 外国人労働者のひみつ』では、混乱する現場のリアルな姿や、外国人労働者との共生のヒントが包み隠さず紹介されています。本稿では、同書より、大幅な円安が外国人労働者の給与や行動に与える影響、そして日本の労働市場が直面する現実について詳述します。
円安が送金額に与える深刻な影響
2024年、日本円は大幅な円安に振れ、日本で働く外国人労働者の生活に大きな影響を及ぼしています。特に、本国へ仕送りをする彼らにとって、この円安は深刻な問題です。
ネパール人男性の証言によると、「10万円を送金しても、以前に比べて4万円ほど目減りした印象がある」とのこと。これは彼らの家族の生活を直接的に圧迫するものです。一方で、ミャンマー人男性は、ドルに対する円安・円高に関わらず、自国通貨チャットとの交換レートが比較的安定しているため、さほど影響を感じていないと述べています。この差は、各国の経済状況や為替政策によって、円安の影響が異なることを示しています。
物価高騰と生活コストの増加
円安の影響は、仕送りだけでなく、日本国内での生活費にも及んでいます。ベトナム人女性は仕送りの頻度が少ないため、直接的な影響は小さいものの、物価の上昇に頭を悩ませています。彼女のお気に入りのプリンが、来日当初の90円から120円、さらには130円に値上がりしたことは、ささやかながらも日々の生活における負担増を象徴しています。
円安の影響で生活費や送金に頭を悩ませる外国人労働者の様子
彼女がサポートする特定技能のベトナム人労働者の多くは仕送りをしているため、「みんな悩んでいる」と言います。物価高騰によって日本での生活コストが増えれば、仕送りに回せる金額も当然減ってしまいます。これは、外国人労働者が日本での労働を通じて得られる経済的メリットを著しく損ねる深刻な問題です。
国際的な人材獲得競争と日本の位置づけ
円安は、これから日本で働こうと考えている外国人材の意思決定にも影響を与えています。インドネシア人女性が故郷バリに帰省した際、地元の知人たちに日本での就労意欲を尋ねたところ、「円安だからやめておこうかと思っている」「別の国のほうがいいかなと迷っている」といった意見が多数聞かれました。
「日本は経験を得るためや、成長したい人には向いている。しかし、家族を持ち、お金のために働くなら、日本はやめたほうがいい」という厳しい声もありました。バリでは英語を話せる人が多く、地理的に近いオーストラリアやアメリカへの渡航、さらにはクルーズ船での就労など、多様な選択肢が存在します。実際、彼女の地元には、日本語学校と並んでクルーズ船で働くための学校も多いといいます。
円の価値が目減りする現状において、日本は他の先進国や新興国と外国人材の獲得競争を強いられています。かつてのような「日本に行けば稼げる」というイメージは薄れつつあり、賃金水準や生活環境の魅力を高めなければ、優秀な人材を引き留めることは困難になるでしょう。
結論
円安は、日本で働く外国人労働者の生活に直接的な影響を与え、彼らの日本での就労意欲や満足度を低下させる要因となっています。仕送りの目減りや物価高騰による生活費の増加は、彼らにとって深刻な問題であり、国際的な人材獲得競争において日本の魅力を損なう結果を招いています。
今後、日本が外国人材との多文化共生社会を築き、持続可能な労働市場を維持していくためには、単に人手不足を補うだけでなく、外国人労働者が経済的にも精神的にも安心して生活し、キャリアを築ける環境を提供することが不可欠です。為替変動に左右されない魅力的な労働条件の提示や、生活支援の強化など、より包括的な対策が求められています。
参考文献
- 中村大介 著『日本人が知らない 外国人労働者のひみつ』(出版社の情報があれば追加)