森昌子、桜田淳子、山口百恵――昭和の時代、多くのスターを生み出し、その輝かしい物語が国民の心をつかんだ人気オーディション番組『スター誕生!』。才能豊かな若き原石が次々と見出される中、芸能界の「ドン」として知られるバーニングプロダクション創業者・周防郁雄氏がその類まれなる「眼力」で「ある少女」に注目した隠れた逸話があります。ノンフィクション作家・田崎健太氏の著書『ザ・芸能界 首領たちの告白』から、後に大スターとなる小泉今日子氏のデビュー前夜に迫る貴重な証言を紐解きます。彼女はいかにして日本のアイドル史に名を刻む存在となったのでしょうか。
「スター誕生!」が紡ぐ才能:周防郁雄氏が見抜いた可能性
『スター誕生!』は、その後も岩崎宏美、ピンク・レディー、石野真子、柏原よしえ(現・柏原芳恵)といった多くの実力派アーティストを世に送り出し続けました。日本テレビで『スター誕生!』や『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』などを手掛けた元制作者の金谷勲夫氏は、特に1982年にデビューしたある二人の少女について、その時の鮮烈な印象を今も覚えていると言います。金谷氏は「予選会では応募してきた1000人全員の顔を見るんです。歌だけじゃない、本人の顔つき、動き、声。だから本当に疲れるんですよ」と当時を振り返ります。
芸能界のドンとして知られるバーニングプロダクション創業者・周防郁雄氏
金谷氏が「来た」と直感した一人の少女は、予選を通過して番組収録に臨むことになりました。しかし、楽曲決めの際、彼女は全く歌を覚えておらず、訓練もしていなかったことが判明。「歌、覚えていないだろ」と問うと、「やっていません」と素直に答えたと言います。金谷氏は「ワンコーラスぐらいちゃんと歌えるようになろうよ」と促し、アコーディオン奏者の横森良造氏によるレッスンを受けさせ、翌週にはテレビで歌うワンコーラスを形にしました。収録当日、金谷氏は普段審査員に何かを言うことはないにもかかわらず、「いい素材がいます、良く見てください」と異例のコメントをしたほど、その少女の潜在能力に期待を寄せていました。
この噂を聞きつけたのが、他ならぬ周防郁雄氏でした。周防氏は金谷氏に「どうだ」と尋ね、金谷氏は「いいと思います」と答えます。「歌は上手くない。ただ、音痴ではない。訓練したことがないとも言いましたね」。この言葉を受け、周防氏は彼女を「取りたい」と名乗りを上げます。この時、バーニングプロダクションとレコード会社、系列事務所の計3社が札を挙げたと言います。周防氏の、どうしてもその少女を欲しがる強い意志が感じられる瞬間でした。
小泉今日子:育成期間を経て輝くアイドルへ
その少女こそ、後に「キョンキョン」の愛称で国民的アイドルとなる小泉今日子氏です。周防氏は金谷氏の言葉を深く理解していました。「彼女はきちんと教えないと良くならない」と。そのため、周防氏はデビューを半年間遅らせ、その間に小泉氏にみっちりとレッスンを受けさせました。基礎を徹底的に叩き込み、スターとしての素養を育むための惜しみない投資があったのです。
金谷氏は、周防氏が自身を「この人が僕に小泉今日子をくれた」と紹介する度に、笑顔がこぼれると言います。また、周防氏が「小泉今日子は一度スタ誕で落ちている」と話すことがあるそうですが、金谷氏はその情報には「正確ではない」と釘を刺します。金谷氏によれば、彼女には光る部分があったため、特例として3週連続で予選会に招かれたのであり、一度も落選はしていないとのこと。これは、単なる歌の上手さだけでは測れない、人としての魅力や可能性を周防氏や金谷氏がいかに見抜いていたかを物語るエピソードと言えるでしょう。
結論:見えない才能を見出す力と育成の重要性
小泉今日子氏のデビュー秘話は、単にオーディション番組からスターが生まれる過程を超え、芸能界のプロフェッショナルたちが持つ「原石を見抜く眼力」と「才能を育む育成力」の重要性を浮き彫りにします。周防郁雄氏と金谷勲夫氏の証言は、歌唱力以上に「何か」を感じさせる存在に投資し、徹底的な指導を通じてそのポテンシャルを最大限に引き出すことの価値を示しています。今日のエンターテイメント業界においても、こうした「人を見抜く力」と「育成へのコミットメント」こそが、時代を代表する新たなスターを生み出す鍵となるでしょう。
参考文献
- 田崎健太. 『ザ・芸能界 首領たちの告白』. 講談社, 2024年.
- Yahoo!ニュース. 「芸能界のドン、バーニングプロダクション創業者・周防郁雄氏の眼鏡にかなった『ある少女』とは?」. https://news.yahoo.co.jp/articles/002cca6f82d6cab5864bb7fa0935e7e576c9a2bc (参照日: 2024年X月Y日)