静岡県伊東市の中心部、伊東駅から車で10分ほどの場所に位置する「伊東マンション」は、4棟の建物と敷地内温泉を誇る、地元で名高い住宅地のひとつだ。特に、日本初のリゾートマンションとも称される「伊東ヴィラ山の上」(総戸数約100戸、築50年以上)では、近年、管理組合の運営を巡る深刻な住民トラブルが長期化し、その平穏が大きく揺らいでいる。
「日本初」のリゾートマンションで何が起きているのか?理事長交代が引き金に
問題の発端は2018年、K氏が管理組合の理事長に就任したことに始まる。かつてこのマンションでは、約30年にも及ぶ長期政権を築いた旧理事長が、裁判を経てようやく退任したという過去がある。その反省から、「理事長の任期は4年以内」という規約が設けられた。しかし、K理事長はこの規約を区分所有者(部屋の所有者)の3分の2以上の賛同を得たと主張し、撤廃。以後、住民の意見が蔑ろにされるようになったと、元理事の一人は語る。再び独善的な理事長が誕生しつつあることに、一部の住民が強く反発するようになったのだ。
「伊東ヴィラ山の上」で伐採された樹木と、住民トラブルの発端となった景観保護を巡る対立
明治大学教授も警鐘:K理事長への複数の告発と係争
この住民運動の先頭に立つのが、過去に2年間「伊東ヴィラ」の理事長を務めた経験を持つ明治大学教授の石井知章氏だ。石井氏はK理事長の解任を議題とする臨時総会の招集を求め、組合員名簿の閲覧を請求するなど、すでに3件の裁判で係争中だという。石井氏が訴えるK理事長の「横暴」とされる具体的な言動は多岐にわたる。
ある住民Aが景観保護を理由にマンション前の樹木伐採に反対した際、K理事長が激怒し、「このデブ」と暴言を吐き、取っ組み合いの喧嘩にまで発展したという。この騒動には警察が出動する事態となったが、その後、A氏は支払済みの2ヵ月分の管理費を「未納者」として理事会の議事録に記載され、さらに全住民に文書で通知された。個人情報を晒されたストレスから、A氏は後にPTSDを発症したと石井氏は証言する。
2020年9月には、石井氏が静岡地方法務局に「理事長の言動によって精神的な打撃を受けている」と申し立て、同法務局が人権侵害事案として調査を開始する事態に発展した。これを機に、K理事長の管理体制の是非を問う住民からの声が石井氏に多数寄せられるようになったという。
多くの声が、K理事長の資質を問うものだった。台風による雨漏りを指摘した住民Bに対して「このクソババア」と暴言を吐いたり、気に入らないからと住民Cを無視したりするなど、平然と個人攻撃を行うという。石井氏自身も、中国研究を専門としていることから「このアカが」「ゴロツキ」と面罵されたと明かす。また、緊急時対応のためと称して全住民の部屋の鍵を管理室に預けるというルールにも疑問が呈されており、安全面への不安が残る中で、住民の留守中に高額なバッグが盗まれる騒動も発生している。
さらに、石井氏は管理組合が使途不明な商品券を購入していることを指摘し、K理事長に会計帳簿の調査を求めたが、明確な回答は得られなかったという。理事長が対応しないならば住民たちに直接訴えかけようと、K理事長就任後に浮上した使途不明金などの疑惑を記した告発文を、石井氏の氏名や連絡先を明記の上で作成し投函したが、K理事長はこれを「怪文書」として取り合わなかったと石井氏は憤る。中から改革しようと理事に立候補することも検討したが、理事会の賛同が得られず実現しなかった。
沈黙する多数の住民と「マンション自治」の危機
しかし、このようなトラブルが公になる一方で、住民の多くは70~80代と高齢であり、リゾートマンションという特性上、半数近くが伊東に常住していないため、問題に対して無関心な傾向にある。全ての住民に参加資格がある総会でマンション管理の重要事項が議決されるが、管理方法への疑問や目的が不透明な支出についての質問をぶつけても、理事たちは過半数の住民から委任状を取っていることを盾に、「信任されている」の一点張りだという。さらに、8月末に開催予定の総会は、開催日が従来の週末から人が集まりづらい平日の日中に変更され、住民の参加を阻害するのではないかと懸念の声が上がっている。別の住民は「マンション自治の崩壊を危惧している」と深刻な現状を訴える。
「伊東ヴィラ山の上」の管理組合問題についてFRIDAYの取材に応じる住民たち
K理事長、疑惑を全面否定し主張は食い違い
これらの住民からの訴えに対し、理事長のK氏はどう考えているのか。本人に電話で確認したところ、K氏は「住民に対して暴言を吐いたなどの事実はまったくない。でっち上げです」と疑惑を完全に否定した上で、次のように反論した。
「一部の住民が過剰に反応しているだけです。(石井氏は)管理組合に対し代理人弁護士を通して自分勝手なことばかり述べ、非常に困惑しております。住民の大多数は、我々理事会を支持している。怪文書を撒くなど、管理の妨害をしているのは石井氏のほうだ。帳簿だって、ガラス張りで開示もしている。係争についても、石井氏を理事にさせなかったことで損害が生じたと訴えてきたわけです。独裁ではなく、総会では住民の方の意見をしっかり聞いています。総会の平日開催についても、2ヵ月ほど前に告知しており、特に意図があったわけではない。都度、総会で民意を問い適切に対処していくつもりです」
これに対し石井氏は、「そもそも訴えてきたのは理事長の方だ。告発文も怪文書ではないと高裁で認定されている」と再度反論した。
この泥沼化する内紛が、伊東を代表するリゾートマンションの看板に深い傷を与えていることは確かである。
高裁も認めた「告発文」の正当性
石井氏の告発文が「怪文書」ではないと高裁で認定された事実は、K理事長の主張とは異なる法的判断が下されていることを示している。この点の食い違いは、問題の根深さと、双方の主張の隔たりを浮き彫りにする。
伊東市を代表するリゾートマンションで勃発したこの内紛は、単なる住民トラブルに留まらない。マンション管理における区分所有者の権利、透明性のある運営、そしてコミュニティの自治という、日本のマンション管理が抱える根本的な課題を浮き彫りにしている。関係者間の深い溝は、地域社会、ひいては日本のマンション管理のあり方にも一石を投じるものとなるだろう。今後の展開が注目される。
参考文献
- FRIDAYデジタル: 「このクソババア」独善的な理事長に住民が反発 静岡・伊東市リゾートマンションで泥沼内紛 (2025年8月31日掲載)
Source link - FRIDAYデジタル: 【画像】FRIDAYの取材に応じたマンションの住民たち
【画像】FRIDAYの取材に応じたマンションの住民たち