近年、全国的にクマによる被害が激増しており、政府は11月14日、「クマ被害対策パッケージ」を公表しました。この対策は、人とクマのすみ分けを目標としていますが、果たして「クマとの共生」は実現可能なのでしょうか。捕獲したクマを原則として山へ返す活動を続けてきたNPO法人ピッキオは、人の安全とクマの保護、その両立に日々頭を悩ませています。
I. クマ被害の現状と政府の対策パッケージ
2024年度は9月末時点で、すでに昨年度の年間捕獲数5345頭を上回る6063頭ものクマが捕獲されており、そのうち約99%にあたる5983頭が駆除されています。このような深刻なクマ被害の増加を受け、政府は新たな対策パッケージを打ち出しました。これは、単に被害を抑えるだけでなく、人とクマが適切な距離で共存できる社会を目指すものです。
II. NPO法人ピッキオ:人とクマの共存を目指す取り組み
A. 軽井沢町での活動と設立背景
国内有数の高級別荘地として知られる長野県軽井沢町では、クマ対策をNPO法人ピッキオに委託しています。2004年に設立されたピッキオは、「人の安全を守ること」と「野生のツキノワグマを絶滅させないこと」という、一見すると矛盾するような二つの目標の両立を目指して活動を続けてきました。
NPO法人ピッキオが人里に接近するクマを捕獲し、その保護と安全の両立に挑む様子
B. 独自の保護管理ユニット活動
ピッキオ・ツキノワグマ保護管理ユニットのリーダーである玉谷宏夫さんによると、彼らの活動は多岐にわたります。具体的には、人里に接近するクマの監視、追い払い、そして地域住民への情報発信などが行われています。さらに、人里に現れたクマを捕獲し、発信器を装着して山奥へ放獣。その後も監視を続け、再び山から下りてきた場合には犬を使って追い払うことで、人との接触を最小限に抑えています。ピッキオの収益は、約6割が町などからの受託事業で賄われ、残りは寄付金と会費で運営されています。
III. 「事前捕獲」が鍵:全国的にも稀な放獣事例
A. 全国的な捕獲・駆除状況
全国的にクマの捕獲頭数が増加する一方で、そのほとんどが駆除されている現状があります。駆除されなかった80頭のうち、52頭は長野県で捕獲されたクマであり、これは島根県の11頭を大きく引き離しています。長野県内でも、特に放獣が多いのが軽井沢町です。
B. 軽井沢町の「放獣」事例とその理由
軽井沢町では、今年度捕獲された26頭のクマのうち、25頭が放獣されています(11月14日時点)。これは、全国で放獣されたクマの約3頭に1頭がピッキオによるものであることを意味します。なぜ軽井沢町でこれほどまでに放獣が多いのでしょうか。玉谷さんは、「他の自治体とは異なり、軽井沢町では一般的なクマの捕獲以外に、『事前捕獲』が行われているからです」と説明します。
捕獲されたツキノワグマに発信機が装着され、今後の行動を監視する準備がされている様子
通常、クマの捕獲は人や農作物への被害が発生した際に行われますが、「事前捕獲」は被害を未然に防ぐためにクマの位置を事前に把握することを目的として実施されます。この先進的な取り組みが、軽井沢町におけるクマの保護と人の安全の両立に貢献しているのです。
結論
クマ被害の激増は社会全体にとって深刻な課題であり、政府の対策パッケージは人とクマのすみ分けを目指しています。NPO法人ピッキオが軽井沢町で行っている「事前捕獲」と「放獣」は、野生動物の保護と住民の安全を両立させるための先進的なモデルとして注目されています。この取り組みは、単なる駆除に留まらない、より持続可能な「クマとの共生」の道を模索する上で重要な示唆を与えています。





