レンタル怖い人、突然のサービス終了:SNSを賑わせた奇妙なビジネスの舞台裏と法的問題点

2023年8月下旬にSNS上で突如として登場し、大きな注目を集めていた「レンタル怖い人」というユニークなサービスが、わずか数日後の8月31日、電撃的にサービス終了を発表しました。その特異な内容と、SNSでの急速な拡散、そして突然の幕引きは、ネット上で大きな話題を呼んでいます。このサービスは一体どのようなもので、なぜこれほどまでに注目され、そしてなぜ短期間で終了するに至ったのでしょうか。背景には、日本のオンラインサービスにおける法的義務と利用者のリスクが潜んでいました。

「怖い人」が解決するトラブル:サービスの概要と料金体系

「レンタル怖い人」の公式ホームページには、「『怖い人』貸し出します」という衝撃的な文言が掲げられていました。肩から腕にかけてびっしりと刺青が入った、いわゆる「怖い人」と形容される風貌の男性たちが、スタッフとして紹介されており、その威圧的な見た目がサービスの根幹をなしていました。

サービス内容は多岐にわたり、「いじめや対人トラブルの解決」を主な目的としていました。具体的には、「職場や子どものいじめ」「騒音などの近所トラブル」「浮気や不倫などの男女トラブル」「金銭トラブル」といった、警察が介入しにくい民事トラブルへの対応を謳っていました。さらに「トラブルではなくても『とにかくそばにいてほしい』という内容でもご対応可能です」と、幅広いニーズに対応する姿勢を見せていました。

一方で、サービスは「※当サービス・スタッフは反社会的勢力との関係は一切ありません。※脅迫などの違法行為のための利用と判断した場合はサービスの提供を中止します」と明記し、あくまで“まっとうな運営”を強調していました。料金体系は「30分2万円、3時間5万円」という高額設定でしたが、「ほとんどのケースは30分以内に終わります」と説明されており、迅速なトラブル解決をアピールしていました。全国対応で交通費は実費という条件でした。

注目度を高めた『鬼越トマホーク』のアンバサダー任命

この奇抜なサービスは、SNS上でスタッフ募集をしていたことでも話題となりました。募集要項には「『怖い人』として働ける目安ですが、ちょっと目つきが悪いとかではダメです。HPの『スタッフ一覧』をご参考ください」とあり、その独特な基準がさらにネットユーザーの関心を引きました。

特にサービスへの注目度を一気に高めたのは、強面で知られるお笑いコンビ『鬼越トマホーク』の存在です。彼らがSNS(X)に“反社風”なコンビ写真を投稿し、「どうもレンタル怖い人です」と書き込んだところ、「レンタル怖い人」のアカウントがすかさず「レンタル怖い人アンバサダーに任命します。おめでとうございます」と返信。このユーモラスなやり取りがネット上で瞬く間に拡散され、サービスは一躍時の話題となりました。

「レンタル怖い人」公式ウェブサイトのトップページ。サービス終了の告知と、肩に刺青が見える「怖い人」スタッフのイメージ。「レンタル怖い人」公式ウェブサイトのトップページ。サービス終了の告知と、肩に刺青が見える「怖い人」スタッフのイメージ。

サービス終了の背景:特定商取引法と事業者情報の欠如

しかし、「レンタル怖い人」はサービス開始当初から、その運営方法に関して懸念が指摘されていました。Xの投稿には、誤解を招く可能性のある情報に対しユーザーが補足情報を付け足せる機能「コミュニティノート」が貼られ、以下のような警告が記されていました。

「本サービスの公式ホームページには会社概要所在地連絡先などの基本情報や特定商取引法で義務づけられている『特定商取引法に基づく表示』が確認できません。特に、役務(サービス提供)を行う事業者は、販売事業者名・所在地・連絡先・提供条件・返品・解約条件などを明示する義務があります。これらが掲載されていない場合、法令違反に該当する可能性が高く、利用者にとって重大なリスクとなります」

実際にホームページ上には、運営事業者の氏名(名称)、所在地、連絡先といった基本的な情報が一切明示されていませんでした。このような状況では、仮に高額な料金を支払った後にサービスが提供されなかったり、問題が発生したりした場合に、利用者が事業者と連絡を取ることすら困難になる「トンズラ」のリスクが懸念されていました。コミュニティノートには消費者庁が管轄する「特定商取引法ガイド」へのリンクも貼られており、法的問題が浮上していたことがうかがえます。

弁護士が指摘する法的リスクと行政処分

突然のサービス終了は、やはりこのような運営方法が問題視されたためではないでしょうか。森實法律事務所の森實健太弁護士は、この件に関して次のように見解を述べています。

「通信販売事業者として特定商取引法の適用があると考えられるため、そうした場合、原則として事業者の氏名(名称)、住所、電話番号等の表示が必要となります。これに違反した場合は、行政指導、社名公表や業務停止等の行政上の措置を課せられる可能性もあります」

森實弁護士はさらに、民事および刑事上のリスクについても指摘しています。
「インターネット上には脅迫等の違法行為はしないとは書いているものの、スタッフの言動等によっては、恐喝罪等が成立することも考えられます。また、民事でも場合によっては強迫による意思表示の取消等も考えられます」

「レンタル怖い人」のような、いわゆる「グレーゾーン」に近いサービスは、その特性上、運営側が意図せずとも法的なリスクを抱える可能性が高いと言えます。利用規約やサイト上での注意喚起だけでは、実際の行為に伴う法的責任を完全に回避することはできません。

まとめ

彗星のごとく現れてネット上で大きな話題を呼び、そしてあっという間にサービスを終了した「レンタル怖い人」。その奇抜なアイデアは一時的な注目を集めましたが、事業者情報の不備や特定商取引法への違反といった法的リスクが明確に指摘される中での突然の幕引きは、オンラインサービス運営における透明性と法令遵守の重要性を改めて浮き彫りにしました。人々の間のトラブル解決という潜在的なニーズに応えようとした試みは評価できるものの、その実現には法的な枠組みの中での健全な運営が不可欠です。果たして、このサービスにどれだけの需要があったのか、そして今後、類似のサービスが登場するのか、動向が注目されます。


参考文献: