静岡県伊東市では、田久保眞紀市長(55)の学歴詐称疑惑を巡り、市政が深刻な混乱に陥っています。市役所には7000件を超える苦情が寄せられ、その進退が注目される中、市長への不信任決議案が全会一致で可決されました。疑惑発覚当初は辞意を表明したものの、後に翻意するなど、田久保市長の一連の対応は、伊東市における長年の政治的課題と市民の深い不満を浮き彫りにしています。
伊東市の田久保眞紀市長。学歴詐称問題で不信任決議を突きつけられ、進退が注目されている。
混迷深まる伊東市政:市長の翻意と不信任決議の背景
田久保市長の学歴詐称問題は、就任からわずか1ヵ月で表面化しました。市長が公約に掲げた新図書館建設の中止やメガソーラー設置の撤回に反対する勢力からのリークではないか、という憶測も飛び交っています。
当初、田久保市長は辞意を表明しましたが、7月末の会見で突然これを撤回し、市政の混乱はさらに深まりました。地元の財界からは早期退陣が求められ、9月1日には市議会で不信任決議案が全会一致で可決されるという異例の事態に発展しています。
このような四面楚歌の状況にもかかわらず、田久保市長はSNSを通じて積極的に世論に働きかけ、「今回の騒動の全容がやっと見えてきました。事実関係に基づいてその目的を明らかにしてきます」と、陰謀論を匂わせる投稿を行うなど、独自の姿勢を貫いています。7月2日の会見で「除籍だった」と説明したものの、市議会の百条委員会での回答は論点が噛み合わないままです。この一連の状況は、伊東市における政治的対立の根深さを物語っています。
異例の当選が示した市民の「政治不信」
今年5月の市長選で田久保市長が勝利した背景には、伊東市民の既存政治に対する根強い不満がありました。彼女には主要な支持団体や政党といったバックボーンがなく、それがかえって昨今の自民党や公明党への不信感を抱く住民の支持を集めたとされています。30年以上も自公系の市長が続き、議会の6割を自公が占める伊東市において、これはきわめて異例の出来事でした。特定の政党色を持たない田久保市長の当選は、これまでの市政に変化を求める市民の強い意思の表れでもあります。
当選後、市民の支持を背景に強引に政策を進めようとする市長と、市政・議会の間には亀裂が生じました。新図書館建設の中止やメガソーラー設置の撤回を巡る対立はその代表例です。市議会関係者からは、「彼女は非常に頑固な人。ブレーンも少なく、周囲に相談できる人がほとんどいないため、一層頑なになっているように映る。市長の言動や対応は下手と言わざるを得ない」との声も聞かれます。特に、卒業証明書の存在を断言しながら公開を拒む姿勢は、市民の不信感を募らせる一因となっています。
観光都市・伊東の課題と市民の声
海と山に囲まれ、豊富な観光資源を持つ伊東市ですが、街の中心部の商店街は寂れ、活気に乏しい現状があります。隣接する熱海市が官民一体で観光地として復活し賑わっているのと比較し、「伊東とは大きな違いだ」と自虐的に語る声も聞かれます。一部の大型施設を除けば飲食店はまばらで、駐車場などの観光インフラも未整備であり、観光地としての課題は山積しています。
地元商店の店員は、「『大型の道の駅だけ栄えればいい』という政治的な空気を感じる。豊富な観光資源を活かせず、インバウンドの恩恵も少ない」と嘆いています。
経済状況も厳しく、伊東市は静岡県下で所得が最も低い市の1つであり、長らく生活保護受給率が県下トップでした。伊東に長く住む老人からは、「結局、誰がなっても同じだね。(田久保)市長には期待していたが、嘘や逃げはよくない。生活が政治で変わるという期待感がこの地域にはない」という諦めに近い声が聞かれます。豪華な図書館に多額の税金を使うよりも、観光への投資に回して地域を潤すべきだという意見も根強く存在します。
置き去りにされた「住民感情」:早期解決への願い
長期にわたる自民政権から市長が変わり、田久保市長に期待を寄せる声があったものの、結果として伊東市は悪い意味で有名になってしまいました。一方的に、過激に市長を攻撃する「反対派」の姿勢にも違和感を覚える市民もいます。
この一連の騒動の中で、最も懸念されるのは「住民感情が置き去りになっている」という点です。市民は政治に変化を求め、その期待が田久保市長の当選に繋がりましたが、現実は市政の混乱と停滞を招いています。政治と市民感覚の間に埋めがたいズレがあることを、この騒動は改めて示しています。伊東市民が最も望んでいるのは、一刻も早く健全な市政が回復し、問題が解決されることです。
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